『Salvation ――救済―― 』 の翻訳を更新しました。Here is the new part of the translation of Salvation.
スラッシーな内容に、ご注意ください。Please be warned of slashy contents.
Author: Isis様 (
isiscolo)
Rating: 時々18禁 (Occasionally NC-17)
Pairing: Snape x Draco (その内リバあり)
Previous:
これまでのお話Summary:
あらすじ ===
このスラッシュの翻訳は、原作者のIsis様 (
isiscolo) のご許可をいただいて掲載しております。
原作はこちら:
http://hieroglyfics.net/hp/salvation.htm ===
[ << ] [ Main ] [ >> ] ドラコがいつものように、把手に手を掛け、極軽く叩くと、扉はすっと開いた。恋人が自分のために施錠しないでいてくれたことに感慨を覚える。セブルスは、いつもの肘掛椅子にはおらず、羽筆を手に、筆記机に向かっていた。教授はドラコを認めると軽く頷き、書類に視線を戻した。
ドラコはセブルスの仕事を邪魔しないよう、所在なげに書棚を眺める。壁を埋めつくす蔵書は圧巻だった。棚の一部は小説で――セブルスは、ドロシー・セイヤーズとジェムス・ジョイスが好みのようだった――また他の一角は歴史書や伝記に割かれ、魔法薬に関するありとあらゆる専門書が、本棚一基を丸々占めている。
魔法薬学書は年代順に整理されており、最近の本が並んでいる一角で、『血と力』という一冊を手に取ったドラコは、著者名を目に留め、微笑んだ。
教授が椅子を曳く音に、ドラコは振りむいて言う。「セブルスって、本を書いてたんですね!」
「私の専門研究が、君の興味を惹くとは思えないが」セブルスは、片手に持った杖でドアを指して「アドヴィジロ」と呟き、もう片方の手をドラコに差し伸べながら、部屋を横切ってきた。
と、そのとき、微かな、しかし刺すような高い音がドラコの背後で起こり、セブルスが唐突に立ち止まる。
「な……?!」
「静かに」セブルスの黒い瞳は眇(すが)められ、一点を見つめていた。普段土気色の顔には赤みが差している。セブルスは数歩ドラコに近づくと、歩みを止めた。「うしろを向きなさい」
何が起こっているのか分からない居心地の悪さを感じながらも、ドラコは従う。セブルスはドラコの背に手を滑らせて、ローブの裾までくると縁(へり)を持ちあげ、再び立ちあがったときには音源を手にしていた。ドラコに付いてくるよう身ぶりで示すと、セブルスは机に戻り、音源を吸取紙の上に乗せてから、戸棚へ向かう。
ドラコはしげしげと、その物体を眺めた。柳の枝のようなものの先端に、円錐型に丸められた紙が付いており、全体が細い銅線と人髪のようなものに巻かれている。物体は、不快な音を発するだけでなく、微かに青い光を放っていた。
「これが良かろう」とセブルスは言い、戸棚に並ぶ瓶群のなかから玻璃壜(フラスコ)を一本選びだすと、コルク栓を外し、物体に数滴振りかける。それは、しゅーっという音を立て煙を吹き、黒くなり静まった。
ドラコは焼け焦げた物体を見おろす。「何だったんですか?」
「盗聴呪文だ」セブルスの声は強張っていた。
スリザリン談話室での出来事が一つずつ思いだされ、嵌(は)め絵の駒がぴたりと填(は)まる。「パンジー……!わざと転んで僕に倒れかかったんだ!」
「仕掛けたのは彼女かもしれないが、仕組んだのは違うだろう。ルシウスかルシウスの仲間だろうな」
ドラコは盗聴呪文が見つかるまえに自分が言ったことを思いだそうとした。「……セブルスって、名前で呼びかけるのを、奴らに聞かれました……」軽い吐き気に襲われるような錯覚に陥る。僕のせいだ、何て不注意なことを。あんなに気をつけていたのに、畜生。あんなに用心していたのに、全部僕が駄目にしてしまった。
「この時間に君がここにいるという事実だけでも、退引(のっぴ)きならないと言うには充分だ」セブルスは棚に戻り、瓶を二本取りだす。ドラコのためにコニャック、そして自分のウイスキー。
杯をそれぞれ注(つ)ぐと、セブルスはドラコに一脚を渡し、肘掛椅子に向かう。ドラコもあとに従い、足載せ台に腰を下ろした。
「最近、お父上との関係はどうだ?」
ドラコは鼻を鳴らす。「毎週のように手紙を寄越します。『勉学に励め』『優位を追求せよ』『スネイプの野郎に耳を貸すな』……」勿論それに留まりはしなかったが、今敢えて言う気にはなれなかった。『権力に手を掛ける好機を棒に振るでない、我が息子よ。此れこそ、我が一族が幾世紀に亘り希求してきた事である。貴殿を必ずや偉大にしてやろう』魅惑的な言葉の数々。しかし父は、ただで与えることは決してない。何事にも必ず代償が必要だった。
「まだ君を、デスイーターにするおつもりなのかね」
「そんな露骨には言いませんけど。でも、ええ、恐らく」
「では、大事な跡取り息子の醜聞を表沙汰にしてまで、私を捕えようとはなさらないかもしれないな……」
ドラコは表情を硬くした。「そんなこと、絶対にさせません」
「君が、させたりさせなかったりできる問題ではない」セブルスはウイスキーを一口啜ってから、杯を手のなかで回し、琥珀色の液体が光を映ずるのを眺めた。「しかしこれで、彼らに確証を掴まれたというわけだ」
ドラコは杯を置き、セブルスに歩み寄る。「憶測に過ぎません!確証と言うためには、こうしてるところを捕まえなくては」ドラコは身を屈め、セブルスにそっと口づけた。恋人の口から味わうウイスキーの味はそう悪くない。唇のしたでセブルスの口が動いた。
「やめなさい。考え事をしているのだから」
ドラコは拗ねたように身を引き、自分の足載せ台に戻る。「今日、一日中考えてたんです。もう疲れちゃいました」
セブルスの片眉が吊りあがり、陰鬱な影が過った。「君には、考えないという贅沢が許されるかもしれないが、生憎、私は殺されないつもりなのでね」
「今、父はセブルスを捕まえるために僕を利用しようとはしないだろうって言ったじゃないですか」
「そうは言っていない。君を巻きこみはしないだろうと言っただけだ。お父上は、不適切な行為という廉(かど)で私を告発はなさるまい――私が強要したと、君が訴えない限りは」
「勿論、そんなことしません」
「しないと君が主張しているに過ぎない」セブルスがじっと見つめてくる。掴みどころのない、暗黒の隧道(ずいどう)のような瞳に捕らえられドラコは、鳩尾(みぞおち)に測りしれない居心地の悪さを感じる。
「僕を信じてくれない……」
「ルシウスを信用していないのだ」セブルスは立ちあがり、長いローブを靡かせながら部屋を行ったり来たりした。「お父上は君を、ご自身の傍らに置きたいと思っておられる。闇の帝王の忠実な僕として。そして私の死を願っておられる。私の裏切り――少なくともお父上が裏切りだと思っておられること――に対する代償として」セブルスは曖昧な笑みを寄越した。「そして息子を拐(かどわ)かしたことに対して」
ドラコは、胸の裏に怒りが込みあげるのを感じる。善くも人を、将棋(チェス)の駒みたいに……!僕は、権力や復讐を巡る勝負事のなかで遣り取りされる花札じゃない。これは僕の人生なんだ。僕が掌握する僕の人生。ドラコはコニャックを一息に飲み干し、煮え滾(たぎ)っている血流にさらなる火を注いだ。「あのね、セブルス」わざとセブルスの洗礼名を強調する――自分が対等であると訴えるかのように。「べつに僕は、セブルスの恋人であると同時に、父の息子であることもできるんですよ」
教授の瞳が、長いあいだ抉るように見つめてくる。と、意外にもその曖昧な微笑は、本物の笑みへと広がった。「そうだな」
セブルスは歩み寄ると、手を差し伸べ、ドラコを腕に抱きとった。「そして、我々二人を超えることができたら、もしかすると君は、ドラコ・マルフォイであるということがどういうことか、真に分かるかもしれない」
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