Salvation Ch. 2 >3

May 15, 2006 00:54



『Salvation ――救済―― 』 の翻訳の更新です。やっと「あらすじ」でご紹介したシーンまで辿り着きました ^_^ 。Here is the new part of the translation of Salvation.
スラッシーな内容に、ご注意ください。Please be warned of slashy contents.

Author: Isis様 (isiscolo)
Rating: 時々18禁 (Occasionally NC-17)
Pairing: Snape x Draco (その内リバあり)
Previous: これまでのお話
Summary: あらすじ

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このスラッシュの翻訳は、原作者のIsis様 (isiscolo) のご許可をいただいて掲載しております。
原作はこちら: http://hieroglyfics.net/hp/salvation.htm

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一週間後、ドラコは、スネイプの研究室へ続く石段を下りながら、再び震えていた。ここ何日か、授業はぼおっとしたなか過ぎていった。頭は例の手紙でいっぱいのまま。本来警告の目的で書かれた手紙は、彼を魅惑し、血を湧かせ、心を波立たせたに過ぎなかったのである。授業に集中する代わりにドラコは、白昼夢に耽った。それは日々具体性を増し、手の込んだものに変わっていった。 変身術でドラコは、甲虫を硝子(ガラス)ではなく烏(カラス)に変えてしまい、呪文学では、拡大呪文と間違えて縮小呪文を使ってしまい、クィディッチの練習中には箒諸共、観覧席の脇に突っこんでしまった。 そして、魔法薬学の授業中の彼は……ああ、畜生……完全に終わっていた。

スネイプの指示をちゃんと聞いておくべきだったことは分かっている。そうする代わりにドラコは、絹のように滑らかなスネイプの声が、心地良い温かな波のごとく身体を包み、掠めるに任せていた。 教授の高襟服の釦(ボタン)を一つ一つ外していく空想に耽りながら。釦をうえから一つ一つ……、ロングボトムとフィンチ-フレッチリーのように一つ一つ……、したまで一つ一つ……。想像のなかのドラコはすでに教授のまえに跪いていた――目を閉じて……口を開いて……。指示が終わり実験が始まると、ドラコは収納棚から間違った水薬瓶を選び、その結果はロングボトムの数々の失敗と同じくらい衝撃的だった。特に屈辱的だったのは、こんな失敗をしたことなど、人生においてなかったからである。

「入りなさい」

ドラコは唇を引き結んだまま入室し、教授の筆記机に歩を進める。スネイプは溜息が出るほど優雅に座していた。さながら塒を巻いて獲物を狙う蛇のように落ち着き払って。その煌く漆黒の瞳はドラコを射竦ませ、彼は自分がとても小さく惨めに思えた。

「授業中、上の空だったようだが?」

「そんなことは……いえ、あの……。申しわけありません」ドラコは床の一点を見つめる。人生において謝ったことはあまりなかった。マルフォイ家の人間は、基本的にいかなるときも謝らないのだ。

「マルフォイ君」スネイプはその発音を弄ぶかのように喉の奥で転がす。「君の悩みは、良く分かるよ」

わ、とドラコは動揺して真っ赤になりながら思った。

「君の念頭にあることは、様々な面において人生を変えるだろう。軽々しくその一歩を踏みだすではない」

わ、わ、顔を上げては駄目だ。あのバジリスクのような視線と目を合わせては駄目だ。いったいどうして知ってるんだろう?!

「自ら考えたまえ、マルフォイ君。何をすべきか他人の指示を仰ぐということは、その者に自分を支配する権力を明け渡すことなのだよ。そのような権利を有する者はいない」

え?

「己の心に忠実であれ。それだけだ」

事態を呑みこんだドラコは、笑いだしたい衝動を抑えた。「父は僕を仲間に引きいれたがっているんです。僕は降誕祭の翌日、正式に加わることになっています。誕生日の日に」

黒い眉が攣りあがる。「それは、君が望んでいることなのかね?」

「そんなこと、関係ないじゃないですか」

スネイプは滑らかな動作で立ちあがり、二人の距離を三歩で縮めるとドラコの肩を掴んだ。「馬鹿なことを言うんじゃない。無論関係あるとも」

ドラコは膝が震えるのが分かった。「父は、今度の新しい任務では僕も重要な役割を担うんだって言うんです。そうすれば、僕は想像を絶する力を得られるって」

「想像を絶する代償と引き換えにな」スネイプは鋭く囁いた。

「父に逆らうことはできません」

「降誕祭休暇は、ここに残りなさい」

「残って欲しいですか?」ドラコは酔ったような錯覚に陥った。スネイプの手が肩のうえにあって、顔がこんな近くにあって。『……同君は男性を好んでいた。以後変わったとは思えない』。

「残るべきだと思うよ」

「そうして欲しいですか?」ドラコの声は途切れ、囁きになる。「僕は……先生が欲しい」

ルシウスはこんな表情をしたことはなかった。 実際最近になるまでスネイプは、ドラコが――気障で、気取った笑い方をするドラコが――これほど儚げに見えるとは思っていなかった。いったいどう対処したものか躊躇しているうちに、少年はためらいがちに腰に手を回し、凭れかかってきた。その接触にスネイプは思わず身動ぐ。これで良いはずがない。これは自分が成し遂げようとしていることの対極にある。極めて反倫理的で……、それに、少年は父親の指示の下、動いているのかもしれない。彼を誘惑し、安全なホグワーツからの追放へと追いこむために。考えすぎかもしれないが、長年の間諜(かんちょう)生活からスネイプは、考えすぎることなどないということを学んでいた。

スネイプはそっと身を引いた。が、少年の追いつめられたような、絶望を湛えた瞳に捕えられる。「マルフォイ君……。気は確かか?」

「僕が欲しくないんですね。……あれは嘘だったんだ」ドラコはぼんやりと言って、床を見つめた。

「何が嘘だったって?」

少年はローブの隠しから畳まれた羊皮紙を取りだし、スネイプの手に押しつける。「父は僕に先生を憎んで欲しいんです。でも、父は知らない」

「知らないって何を、マルフォイ君?」それは、マルフォイ家が好んで使う、厚手の羊皮紙だった。何度も開かれてはまた畳まれたことが一目で見てとれる。スネイプは皺を伸ばし、その簡潔な手紙を読んだ。ルシウスの奴め、とスネイプは思う。

「僕の口から言わせたいんですか?」ドラコの瞳は辛うじて押し止(とど)めた涙で光り、身体は震えていた。「僕は……僕は、女の子は好きじゃないんです。そういう意味では。先生なら分かってくださると思ったのに。でも、嘘だったんだ」

スネイプは、足元に大きな亀裂が口を開けるような気がした。何をしようと、何を言おうと、間違っているだろう。何がより大きな思い遣りだろうか。何がより重い罪だろうか。

溜息をつく。「嘘、ではない」

希望の煌きが少年の瞳を横切り、それはスネイプの胸に突き刺さる。彼は何と美しい誘惑であることか。それはまるでルシウスを再び手に入れるかのようだろう。氷と石以外の心を持つルシウスを。 スネイプは、ドラコがいかに間違っているかということを思い知らせるためだけに、誘惑に乗る衝動に駆られた。もしくは、彼が正気に戻るまで肩を掴んで揺さぶるか。しかしそのどちらもせず、スネイプは椅子を引き寄せドラコに座るよう促し、自分用にもう一脚を配置した。慎重に。近すぎないように。

「いいかい、マルフォイ君。私が男性を」この単語を僅かに強調する。「好んでいるというのは本当だ。しかし、私は君を寝室に引きこもうとしていた訳ではない。私は君に、物事を疑問視することの大切さを教えようとしていたんだ。君が当然だと思いこんできた事柄を疑問視することの。君のお父上が当然だと思いこんでおられる事柄を」

「僕のことが心配ですか?」少年の声は囁きになっていた。

「君が盲目的にお父上に従って、ヴォルデモートに仕えるのを阻止できるのならば、何でもしようと思うよ」

「だったら心配してください」ドラコの声は震えていたが、瞳は新たな決意に燃えていた。

「私は君の教師だ。君は生徒だ」次第に自制を保つのが困難な事態になっていた。スネイプは、恐れられることには慣れている。憎まれることにも。しかし、求められることには慣れていなかった。ほかならぬルシウスの息子になら、なおさら。

「あと三週間で――三週間もしないうちに……」

「そうだな。君は成人する。そうしたら、君もあいつらの仲間になるのか?」

少年の顔に様々な感情が渦巻くのが、見てとれる。当惑。癇癪。怒り。もしかしたら、彼を追いつめすぎてしまったかもしれない。

と、ドラコは笑みを浮かべた。ほとんどいつものドラコの笑みを。高慢で優越感に満ち……、しかしそこには微かな苦々しさが混じっていた。

「それは、先生、先生次第ですよ。今度の誕生日に僕は、デスイーターになるか、それとも先生の恋人になります。さあ、どっちかしら?」

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A/N:

世の中に、スラを翻訳して発表するという行為が存在するなんて夢にも思っていなかった頃、純粋に自分の楽しみの為、こちらの部分を訳したのが、そもそも全ての始まりでした。自分の日本語力のなさに日々落ち込むことばかりですが、あの頃の気持ちを忘れずに、これからも頑張ろうと思います。 p(^_^)q

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