『Salvation ――救済―― 』 の翻訳第二弾です。
Here is the second part of the translation of Salvation.
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このスラッシュの翻訳は、原作者のIsis様 (
isiscolo) のご許可をいただいて掲載しております。
原作はこちら:
http://hieroglyfics.net/hp/salvation.htm ===
[ << ] [ Main ] [ >> ] その後数週間、スネイプは、七年生の魔法薬学の教室を今まで以上に注意深く観察していた――ミネルバ・マクゴナガルがくれた誕生日の一覧に手控えを書きつけながら。ハッフルパフ生に該当者はいないようだった。レイブンクローの女子に一人怪しいのがいたが、寮監が面倒を看てくれるだろう。問題はダンブルドアが仄めかしたように、スリザリン寮だった。
大半の者は正しい道を歩んでいる様子だったが、何人かはさらなる観察が必要に思われた。不器用で不細工なミリセント・ブルストロードは、ことさらヴォルデモートのお気に召すとは思えなかったが、彼女はパンジー・パーキンソンに付いてどこまでも――地獄へさえも――追っていきかねないように見える。そして事実、パーキンソンは、地獄へ向かって歩んでいる様子だった。残念なことだ。彼女が頭の良い女の子だということは認めざるを得ない事実だったが、パーキンソンは教科書やらには全く興味を示さず、彼女の気を惹くのは男子だけのようである。昨年、クリスマスのユール・ボールでドラコ・マルフォイに振られて以来、彼女は、荒れたり、陰気になったり、怒ったり、塞ぎこんだりを順に繰りかえし、つぎの夏休みにはマーカス・フリント――彼はパーキンソンには年上すぎたし、ほぼ確実にデスイーターだったが――と付きあいだした。彼女を救うのは、まず不可能だった。
しかし自分に要求されているのはまさにそれなのだ、とスネイプは――材料を磨り潰したり、大鍋に投げこんだりしているスリザリン生とグリフィンドール生を眺めながら――険しい面持ちで考える。パーキンソンを見せかけの恋人から救うこと、ブルストロードをパーキンソンから救うこと、ビンセント・クラッブとマルフォイをその親から救うこと――すでに十七歳になっており、すなわち成人しているグレゴリー・ゴイルを救うのが絶望的であることは明らかだった。
グリフィンドール生の心配をしなくて済むだけましだ、とスネイプは次いで考える。グリフィンドール生には尊いポッターがいた。尊いポッターは奴ら全員を救うだろう。間違いなく。自分がわざわざ、奴らの魂をヴォルデモートから救うために、手を煩わせる必要はない。とはいえ――スネイプは素早く教室後方の机に赴き、ロングボトムの手を大鍋から払い除ける――自分は明らかに、何人かの者を、己の愚かさから救わなくてはならないようだった。
「ロングボトム君、乾燥草蜻蛉を入れるのは、まだ十分後だ」
「時計も読めないのかい、ロングボトム?」マルフォイの嘲るような囁きが脇から聞こえてくる。
「ざけんな」ロン・ウィーズリーがもごもご言った。
「静かに、ウィーズリー君。さもなくばグリフィンドールから十点減点だ」とスネイプは言い、正面の教卓に戻った。マルフォイは、澄ましていた。
スネイプは、若いマルフォイに対する贔屓を隠そうとしたことも、ロングボトムのような能無しに対する軽蔑を隠したこともない。マルフォイは頭が良く、優秀な生徒だった。全くもって、努力家であるとは言いがたかったが。当然のように富を享受し、名高い旧家出身のマルフォイは、実のところ何かしなければならないということがなかった。その点で彼はポッターに良く似ている。 ポッターは、「尊大で規則を規則とも思わない性癖」という、父親から遺贈された形見に相応しい生き方をするのに余念がなく、マルフォイは自分の父親の期待に応えようと最大限努力しながら生きていた。マルフォイの父親――才気溢れ、野望に満ち、議論の余地なく残忍な――ルシウスの……。
そして議論の余地なく美しい……とスネイプは黙想した――白金色の頭が鍋を覗きこんでいる様子を眺めながら。少年は、かつて同じ年ごろだった父親に本当に良く似ている。スネイプは、ルシウスが息子をデスイーターにするつもりであることを、確信していた。そしてドラコが嬉々として従うであろうことも。何年もまえに彼自身が嬉々としてルシウスに従ったように。
思い出が体内を過(よぎ)っていく。 耳のなかでこだまするルシウスの声、肌に押しつけられたルシウスの身体、髪に絡められたルシウスの細い指……。ルシウスは、スネイプの肌のみならず、自尊心と野心を擽(くすぐ)った。野望に燃え、成功への渇望に目の眩んだ若きスネイプにとって、その一歩を踏みだすのは容易なことだった。ルシウスを追って闇への一歩を踏みだすこと、心をルシウスに捧げ、魂をヴォルデモートに捧げること、そして、闇の印を受けることは……。スネイプは自分自身を完全に明け渡していた。
そして、彼は捨てられた。
そして、彼は救われた。
スネイプは鍋々のしたで、最早火が燃えていないことにぼんやりと気づく。生徒たちは撹拌匙(かくはんさじ)を置き、自分に注目していた。スネイプは金属棒の束を教卓から取りあげる。
「どうやら皆、何も爆発させることなく、課題を終えることができたようだな」スネイプが視線をロングボトムに移すと、ロングボトムは真っ赤になった。「では諸君が、実際に課題を達成できたかどうか見るとしよう」 スネイプは机を回り、生徒たちが調合した溶液を採点する。失敗作――つまり、純金の棒とその他の棒を識別することのできない薬液――には辛辣な評を述べ、合格点の溶液には極めて素っ気ない賛辞を与えながら。
「幸いなことに、諸君が金(きん)と鉄屎(かなくそ)を識別しなければならない機会は、早々ないだろう」教室正面に戻りながら言う。「しかし、これは非常に有用な能力であるということだけは言っておこう」スネイプは身振りで授業の終わりを示した。
若いマルフォイが教科書類を掻き集めて、緩慢に教室から出ていく。クラッブとゴイルが護衛隊宜しくその脇を固めていた。マルフォイがヴォルデモート側に付くのを阻止できたら、あらゆる意味で胸のすく思いだろう。ダンブルドアに対する借りは返せ、ルシウスに対する復讐は果たせるだろう。疑問はただ一つ。マルフォイは金を採るだろうか?それとも鉄屎を?
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A/N:
少しスラッシーになってきました (^^) 。でもまだまだ先は長い…。
It's getting slightly slashy (^^) but there's a long way to go, still...
Lala
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