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Ryunosuke Akutagawa "The Dog, Shiro"
May 03, 2012 11:02
Аудио и текст (в комментах) для изучающих японский.
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японский язык
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白 芥川龍之介 Часть 1
mishajp
June 12 2011, 02:04:08 UTC
ある春の午(ひる)過ぎです。白(しろ)と云う犬は土を嗅(か)ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣(いけがき)が続き、そのまた生垣の間(あいだ)にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町(よこちょう)へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。
それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏(しるしばんてん)を着た犬殺しが一人、罠(わな)を後(うしろ)に隠したまま、一匹の黒犬を狙(ねら)っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬(かいいぬ)の黒(くろ)なのです。毎朝顔を合せる度にお互(たがい)の鼻の匂(におい)を嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです。
白は思わず大声に「黒君! あぶない!」と叫ぼうとしました。が、その拍子(ひょうし)に犬殺しはじろりと白へ目をやりました。「教えて見ろ! 貴様から先へ罠(わな)にかけるぞ。」――犬殺しの目にはありありとそう云う嚇(おどか)しが浮んでいます。白は余りの恐ろしさに、思わず吠(ほ)えるのを忘れました。いや、忘れたばかりではありません。一刻もじっとしてはいられぬほど、臆病風(おくびょうかぜ)が立ち出したのです。白は犬殺しに目を配(くば)りながら、じりじり後(あと)すざりを始めました。そうしてまた生垣(いけがき)の蔭に犬殺しの姿が隠れるが早いか、可哀(かわい)そうな黒を残したまま、一目散(いちもくさん)に逃げ出しました。
その途端(とたん)に罠が飛んだのでしょう。続けさまにけたたましい黒の鳴き声が聞えました。しかし白は引き返すどころか、足を止めるけしきもありません。ぬかるみを飛び越え、石ころを蹴散(けち)らし、往来どめの縄(なわ)を擦(す)り抜け、五味(ごみ)ための箱を引っくり返し、振り向きもせずに逃げ続けました。御覧なさい。坂を駈(か)けおりるのを! そら、自動車に轢(ひ)かれそうになりました! 白はもう命の助かりたさに夢中になっているのかも知れません。いや、白の耳の底にはいまだに黒の鳴き声が虻(あぶ)のように唸(うな)っているのです。
「きゃあん。きゃあん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」
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Часть 2
mishajp
June 12 2011, 02:05:05 UTC
白はやっと喘(あえ)ぎ喘ぎ、主人の家へ帰って来ました。黒塀(くろべい)の下の犬くぐりを抜け、物置小屋を廻りさえすれば、犬小屋のある裏庭です。白はほとんど風のように、裏庭の芝生(しばふ)へ駈(か)けこみました。もうここまで逃げて来れば、罠(わな)にかかる心配はありません。おまけに青あおした芝生には、幸いお嬢さんや坊ちゃんもボオル投げをして遊んでいます。それを見た白の嬉しさは何と云えば好(い)いのでしょう? 白は尻尾(しっぽ)を振りながら、一足飛(いっそくと)びにそこへ飛んで行きました (
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Часть 3
mishajp
June 12 2011, 02:05:45 UTC
お嬢さんや坊ちゃんに逐(お)い出された白は東京中をうろうろ歩きました。しかしどこへどうしても、忘れることの出来ないのはまっ黒になった姿のことです。白は客の顔を映(うつ)している理髪店(りはつてん)の鏡を恐れました。雨上(あまあが)りの空を映している往来(おうらい)の水たまりを恐れました。往来の若葉を映している飾窓(かざりまど)の硝子(ガラス)を恐れました。いや、カフェのテエブルに黒ビイルを湛(たた)えているコップさえ、――けれどもそれが何になりましょう (
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3 продолжение
mishajp
June 12 2011, 02:06:43 UTC
二三時間たった後(のち)、白は貧しいカフェの前に茶色の子犬と佇(たたず)んでいました。昼も薄暗いカフェの中にはもう赤あかと電燈がともり、音のかすれた蓄音機(ちくおんき)は浪花節(なにわぶし)か何かやっているようです。子犬は得意(とくい)そうに尾を振りながら、こう白へ話しかけました。
「僕はここに住んでいるのです。この大正軒(たいしょうけん)と云うカフェの中に。――おじさんはどこに住んでいるのです?」
「おじさんかい?――おじさんはずっと遠い町にいる。」
白は寂しそうにため息をしました。
「じゃもうおじさんは家(うち)へ帰ろう。」
「まあお待ちなさい。おじさんの御主人はやかましいのですか?」
「御主人? なぜまたそんなことを尋(たず)ねるのだい?」
「もし御主人がやかましくなければ、今夜はここに泊(とま)って行って下さい。それから僕のお母さんにも命拾いの御礼を云わせて下さい。僕の家には牛乳だの、カレエ・ライスだの、ビフテキだの、いろいろな御馳走(ごちそう)があるのです。」
「ありがとう。ありがとう。だがおじさんは用があるから、御馳走になるのはこの次にしよう。――じゃお前のお母さんによろしく。」
白はちょいと空を見てから、静かに敷石の上を歩き出しました。空にはカフェの屋根のはずれに、三日月(みかづき)もそろそろ光り出しています。
「おじさん。おじさん。おじさんと云えば!」
子犬は悲しそうに鼻を鳴らしました。
「じゃ名前だけ聞かして下さい。僕の名前はナポレオンと云うのです。ナポちゃんだのナポ公だのとも云われますけれども。――おじさんの名前は何と云うのです?」
「おじさんの名前は白と云うのだよ。」
「白――ですか? 白と云うのは不思議ですね。おじさんはどこも黒いじゃありませんか?」
白は胸が一ぱいになりました。
「それでも白と云うのだよ。」
「じゃ白のおじさんと云いましょう。白のおじさん。ぜひまた近い内(うち)に一度来て下さい。」
「じゃナポ公、さよなら!」
「御機嫌好(ごきげんよ)う、白のおじさん! さようなら、さようなら!」
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Часть 4
mishajp
June 12 2011, 02:07:13 UTC
その後(のち)の白はどうなったか?――それは一々話さずとも、いろいろの新聞に伝えられています。大(おお)かたどなたも御存じでしょう。度々(たびたび)危(あやう)い人命を救った、勇ましい一匹の黒犬のあるのを。また一時『義犬(ぎけん)』と云う活動写真の流行したことを。あの黒犬こそ白だったのです。しかしまだ不幸にも御存じのない方(かた)があれば、どうか下(しも)に引用した新聞の記事を読んで下さい (
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それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏(しるしばんてん)を着た犬殺しが一人、罠(わな)を後(うしろ)に隠したまま、一匹の黒犬を狙(ねら)っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬(かいいぬ)の黒(くろ)なのです。毎朝顔を合せる度にお互(たがい)の鼻の匂(におい)を嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです。
白は思わず大声に「黒君! あぶない!」と叫ぼうとしました。が、その拍子(ひょうし)に犬殺しはじろりと白へ目をやりました。「教えて見ろ! 貴様から先へ罠(わな)にかけるぞ。」――犬殺しの目にはありありとそう云う嚇(おどか)しが浮んでいます。白は余りの恐ろしさに、思わず吠(ほ)えるのを忘れました。いや、忘れたばかりではありません。一刻もじっとしてはいられぬほど、臆病風(おくびょうかぜ)が立ち出したのです。白は犬殺しに目を配(くば)りながら、じりじり後(あと)すざりを始めました。そうしてまた生垣(いけがき)の蔭に犬殺しの姿が隠れるが早いか、可哀(かわい)そうな黒を残したまま、一目散(いちもくさん)に逃げ出しました。
その途端(とたん)に罠が飛んだのでしょう。続けさまにけたたましい黒の鳴き声が聞えました。しかし白は引き返すどころか、足を止めるけしきもありません。ぬかるみを飛び越え、石ころを蹴散(けち)らし、往来どめの縄(なわ)を擦(す)り抜け、五味(ごみ)ための箱を引っくり返し、振り向きもせずに逃げ続けました。御覧なさい。坂を駈(か)けおりるのを! そら、自動車に轢(ひ)かれそうになりました! 白はもう命の助かりたさに夢中になっているのかも知れません。いや、白の耳の底にはいまだに黒の鳴き声が虻(あぶ)のように唸(うな)っているのです。
「きゃあん。きゃあん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」
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「僕はここに住んでいるのです。この大正軒(たいしょうけん)と云うカフェの中に。――おじさんはどこに住んでいるのです?」
「おじさんかい?――おじさんはずっと遠い町にいる。」
白は寂しそうにため息をしました。
「じゃもうおじさんは家(うち)へ帰ろう。」
「まあお待ちなさい。おじさんの御主人はやかましいのですか?」
「御主人? なぜまたそんなことを尋(たず)ねるのだい?」
「もし御主人がやかましくなければ、今夜はここに泊(とま)って行って下さい。それから僕のお母さんにも命拾いの御礼を云わせて下さい。僕の家には牛乳だの、カレエ・ライスだの、ビフテキだの、いろいろな御馳走(ごちそう)があるのです。」
「ありがとう。ありがとう。だがおじさんは用があるから、御馳走になるのはこの次にしよう。――じゃお前のお母さんによろしく。」
白はちょいと空を見てから、静かに敷石の上を歩き出しました。空にはカフェの屋根のはずれに、三日月(みかづき)もそろそろ光り出しています。
「おじさん。おじさん。おじさんと云えば!」
子犬は悲しそうに鼻を鳴らしました。
「じゃ名前だけ聞かして下さい。僕の名前はナポレオンと云うのです。ナポちゃんだのナポ公だのとも云われますけれども。――おじさんの名前は何と云うのです?」
「おじさんの名前は白と云うのだよ。」
「白――ですか? 白と云うのは不思議ですね。おじさんはどこも黒いじゃありませんか?」
白は胸が一ぱいになりました。
「それでも白と云うのだよ。」
「じゃ白のおじさんと云いましょう。白のおじさん。ぜひまた近い内(うち)に一度来て下さい。」
「じゃナポ公、さよなら!」
「御機嫌好(ごきげんよ)う、白のおじさん! さようなら、さようなら!」
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