ニューヨーク州の都市、シラキュースのメディアによるインタビューなので地元の話題が多いのが特徴の記事です。
ネタバレというほどではないと思いますが、"Falling"にこういうシーンがあるという記述があるのでご注意下さい。
LOTRに出演したスター、ヴィゴ・モーテンセンは監督デビュー作で非常にパーソナルな物語を語っている
ウォータータウン高校の卒業生は"Falling"で脚本を書き、監督・製作・作曲・主演している
彼が演じるジョン・ピーターソンはニューヨーク州北部にある家族の農場を後にして田舎暮らしから離れ、パートナー(テリー・チェン)と娘(ギャビー・ヴェリス)と共にカリフォルニアで暮らしている。認知症に苦しむジョンの父親ウィリスがジョンと一緒に住むようになり、変化を拒んだことで2つの世界がぶつかる。
『エイリアン』の俳優ランス・ヘンリクセンが年老いたウィリスを演じている。元妻たちを「売春婦」と呼び、ゲイの息子の前でたびたび同性愛嫌悪の発言をする偏屈な年寄りだ。『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』で伝説のテニス・プレイヤー、ビヨン・ボルグを演じたことで知られるヴィゴそっくりのスヴェリル・グドナソンが、ジョンの母親を追い出してしまう若い頃のウィリスを演じている。場面は過去と現在を行き来してウィリスの記憶力との闘いと多くの破綻した恋愛関係を描いている。
映画は主に(カナダの)オンタリオ州で撮影されたが、多くのシーンはニューヨーク州北部を舞台にしており、ロケ地はモーテンセンが青年期を過ごした場所に似ている。
「オンタリオ州南部は、セント・ローレンス川の反対側によく似てる」と62歳のモーテンセンはシラキュース.comとのインタビューで説明している。
「まさに慣れ親しんだ風景だから、その場所を舞台にしたんだ」と彼はつけ加える。「自分が良く知っているものを使った。風景や季節、60年代・70年代のあの周辺の様子。たとえば車や服装、人々、家、農場、そしてある程度そうしたものが今どうなっているか。」
「遠回しに言うと、この映画はノース・カントリー(訳注:ニューヨーク州最北端の地域)とニューヨーク州に敬意を表しているんだ。見ればわかるよ。」世界で5000万人以上が苦しんでいるという認知症の患者が身の回りにいる人は特にこの作品に心を捕まれるだろう。世界保健機関(WHO)は2050年までに(現在の)3倍の人が認知症になると予測していて、その症状には物忘れや道に迷ったり頭が混乱したりすることが挙げられる。
「認知症になった人が家族にたくさんいたんだ」とモーテンセンは話す。モーテンセンの母親と父親はともに認知症で継父と両家の祖父母も認知症だった。
モーテンセンは現在スペインに住んでいるが、今でも家族がいるノースカントリーに時折帰って来ている。2019年のクリスマス頃にはウォータータウンのマスタード・シード・ナチュラル・マーケット&カフェで目撃されており、2015年に亡くなった母のグレースとその2年後に亡くなったヴィゴ・シニアの世話をするために長期間滞在していた。
自身のウェブサイト(訳注:Perceval Picturesのサイト。備考参照)でモーテンセンは父親がヴィゴを自分の父親と混同するようになり、「時折、幼少期と思春期の遠い過去に迷い込み、英語ではなくデンマーク語で僕に話しかけてきた」と書いている。
しかし映画の中の認知症との闘いとジョンの故郷(ウォータータウン・デイリー・タイムズ紙が映るシーンもある)は実体験に基づいているが、物語の残りの部分はほとんどフィクションだ。モーテンセンは母親の葬式の直後に"Falling"を書き始めた。
「母が亡くなった時、母のことをすべて覚えておきたかったんだ。母を愛してたし、今でも愛してる。考えたことや思い出などを書き留めておきたかった」と彼は先週「ザ・レイト・ショー」でスティーヴン・コルベアに語った。「書き始めたら、それが物語、架空の物語になった。ドキュメンタリーみたいに、弟たちに電話して”こんなことあったっけ?いつだった?こう言ったのは誰だっけ?”と確認しなくちゃならないより、もっと自由に感じたんだと思う。だから”お話を作って、その時感じたことやいくつかの思い出や事件を使うけれど、これは作り話だ”って言ったんだ。」
実際の体験から引き出されたシーンの1つは、幼いジョンが父親と初めて狩猟に行って鴨を撃つが、撃った鴨を夕食ではなくお風呂のおもちゃかぬいぐるみのようにしたがるという風変わりな回想シーンだ。
明らかに事実に基づかないシーンとしては10代のジョンが怒った父親に馬から落とされて、大人になっても残る唇の傷跡ができるという場面がある。モーテンセン自身も唇に傷跡があるが、これはセント・ローレンス大学に通っている時にできてしまった傷だ。
「馬鹿げたことだったんだ。ちょうど18歳になった時だった。大学1年生の時、1976年のハロウィンで友達とパーティーに出かけていた。馬鹿げた事故で有刺鉄線の柵に突っ込んでしまった。それで唇がひどく切れて縫わなければならなかったんだ」とモーテンセンはシラキュース.comに語っている。「それで、よし、これを利用しようと思ったんだ。これについての話を作ろうって。」
ブーンヴィルはニューヨーク州で最も醜い街
モーテンセンはまたウィリスが暴言の1つで言及しているオナイダ郡の村、ブーンヴィルに対して悪意はないことを観客に知ってもらいたいと思っている。「ブーンヴィルはニューヨーク州で一番醜い街だ」とヘンリクセンは怒鳴り、ジョンの妹(ローラ・リニーが演じている)を嘆かせる。
「ブーンヴィルにはお詫びするよ」とモーテンセンは言う。「時々、映画を見て”この人物があれこれ言ってるのは監督か脚本家が(僕の場合は両方兼ねているけど)そう思っているんだろうと考える人がいる。でもそうじゃない。ブーンヴィルは美しいよ。僕は青春時代をあの地域で過ごしたのでとても良く知っている。あれは(登場人物の)頭の中に詰まっているでたらめの1つというだけだ。とんでもないよね…。」
「ブーンヴィル出身の人は怒るだろうね」と彼は笑った。「でも僕は(醜いとは)思っていない。登場人物がそう思ってるんだ。」
ブーンヴィルとローヴィル(訳注:ニューヨーク州ルイス郡の村)、ユーティカ(訳注:ニューヨーク州中央部の都市)は"Falling"のクレジットで謝辞を捧げられている。またこの作品はヴィゴの兄弟、チャールズとウォルター・モーテンセンに捧げられている。彼には妹はいないが、これもまた物語が現実とは異なっている点だ。
真冬のニューヨーク州ウォータータウンにいるなんて
ヴィゴ・モーテンセンは1958年10月20日にニューヨーク州ウォータータウンで生まれた(訳注:これは筆者の間違い。ヴィゴはニューヨークのマンハッタンで生まれています)。彼の母はウォータータウン出身でノルウェーへの旅行でデンマークの農場経営者である彼の父親に出会った。幼いヴィゴは子供時代の一部をアルゼンチンで過ごしたが、11歳の時に両親が離婚してウォータータウンに戻ってきた。彼は1976年にウォータータウン高校、1980年にセント・ローレンス大学を卒業した。
彼はピーター・ジャクソン監督のLOTR3部作でアラゴルンを演じ、また『イースタン・プロミス』『はじまりへの旅』『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『オーシャン・オブ・ファイヤー』『ザ・ロード』そして『グリーンブック』などの役柄を演じ、アカデミー賞にノミネートされた俳優として現在知られている。彼はまた詩人、写真家、画家、(彼の出版社パーシヴァル・プレスの)出版者であり、ギタリストのバケットヘッドとのコラボレーションをフィーチャーした20枚以上のアルバムをリリースしている。
彼はスケジュールの都合で最初のXメン映画でウルヴァリン(のちにヒュー・ジャックマンに行った役だ)を演じることを断り、伝えられるところによると2013年のスーパーマン映画『マン・オブ・スティール』、2012年の『スノーホワイト』、2019年の『ジョーカー』でバットマンの父親であるトーマス・ウェインを演じることになりそうだったと言われている(訳注:『ジョーカー』のトーマス・ウェイン役にアレック・ボールドウィンが検討されていたという話はありますがヴィゴが候補だったというのは聞いたことないような…。バットマン関連ではクリストファー・ノーラン監督の『バットマン・ビギンズ』でリーアム・ニーソンが演じた役をオファーされていたことはあります)。
しかし、モーテンセンの同級生たちは、ウォータータウン高校の水泳部のキャプテンがいつか世界的に有名になるとは予想していなかっただろう。
「僕は引っ込み思案だったんだ」とモーテンセンはシラキュース.comに語る。「友だちはいたけれど、パーティーやダンスに行くのはあまり好きじゃなかった。大人になってから人前で話すことが自分の活動分野になるとは思ってもみなかった。」
<ビル・ウォレス提供の1970年代ウォータータウン高校水泳部の写真。モーテンセンは前列一番右>
ウォータータウン高校でモーテンセンの水泳コーチをしていたビル・ウォレスは若いヴィゴがいつか映画スターになるとは想像していなかったという。
「頭をよぎったこともない」とウォレスはシラキュース.comに語った。「彼は僕の周りでは大人しかったけれど、他の子供たちは、彼は時々ちょっと騒ぐこともあると話してた。」
モーテンセンは中学時代、ある人から演技をしてみたらと勧められて、一度ミュージカルに挑戦したことがあるが、オーディションはあまり上手くいかなかった。
「(舞台に)上がって何かを読まなければならなかったんだ。それで僕はディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」の冒頭のページを読んでいたら「もっと大きな声で!もっと大きな声で!」と言われ続けた。僕はパニックになってしまった。ぼそぼそつぶやいていたので、みんなは僕の声が聞こえなかったんだ。そして僕は本を閉じて外に飛び出して、これで終わりだと言った」とモーテンセンは振り返った。
「俳優になるとは思っていなかったけれど、ずっと映画が好きだった。母はいつも僕を映画に連れて行ってくれた。ウォータータウンでいつも一緒に映画に行っていた。いつも感動的な物語に魅了されて、何とかしてこの世界に関わりたいと思っていた」と彼は続けた。「映画を見ている間、映画は君をどこかに連れて行ってくれる。そして灯りがつくと君は通りに出て"なんだ、僕は真冬のニューヨーク州ウォータータウンにいるんだ。アラビアでラクダに乗ってるんじゃない"と思う。」
モーテンセンは7か国語を話すことができる(エルフ語はその中には入っていない)。それで彼は1980年のレイクプラシッド冬季オリンピックでスウェーデンとデンマークのホッケー・チームの通訳を務めることになった。彼は“氷上の奇跡”(訳注:アメリカ対ソ連のアイスホッケーの試合。アマチュア中心のアメリカ・チームがプロ選手で固めたソ連のチームに4対3で勝った)をナマで見ており、その年、金メダルを5個獲得したアメリカのスケート選手エリック・ハイデンに"Falling"の中で触れている。
<ビル・ウォレス提供による1970年代ウォータータウン高校水泳チームの写真。モーテンセン(スペルがMortensonとなっている)は左から2番目>
ロード・オブ・ザ・リング
"Falling"でモーテンセンは初めて監督業に進出し、演技でもアカデミー賞に3回ノミネートされているが、自分が常にLOTRに結び付けられることをよくわかっている。ピーター・ジャクソン監督によるFOTR、TTT、ROTKは史上最高の興収を記録したトップ75本の映画に入っており、J.R.R.トールキンの「ホビット」を原作とするもう1つの3部作にもつながった。
現在Amazonのテレビ・シリーズが製作されていて、中つ国第2紀の歴史を探求して、サウロンが一つの指輪を造り、9人の王が指輪の幽鬼に堕ちるところが含まれるのではないかと報じられている。モーテンセンが演じたアラゴルンは登場しないが、それでも彼はシリーズを見るつもりだと言う。
「どんなものを作っているのか知りたいんだ。つまり、トールキンには「指輪物語」だけでなく、たくさんの素材がある。あの世界や神話、物語が興味深いんだ」と彼は話す。
モーテンセンはまたLOTRの気に入っているシーンについて簡単に振り返った。
「ボロミアを演じた俳優のショーン・ビーンとの関係、あの関係が好きなんだ。FOTRの終わりの方に彼が死ぬシーンがある。あれは双方のキャラクターにとってとても重要な瞬間なんだ」とモーテンセンは語る。「とても美しいシーンで真実味があって、トールキンによって書かれた本の精神に沿ったものだ。」
彼はまたオリジナルの劇場版3部作には含まれなかったシーンのいくつかにも懐かしい思い出がある。PJのエクステンディッド版でそれらのシーンが見られたことを喜んでいて、ファンにも是非そちらを見て欲しいと思っている。
”Falling”はモーテンセンの映画会社Perceval Picturesからリリースされ、(アメリカでは)VODとデジタルで2月5日からレンタルまたは購入することができる。
ハリウッドレポーター誌はこの作品を「期待通りの知的で繊細な監督デビューであり、ヘンリクセンのキャリアのハイライトである」と評し、ガーディアン紙は4つ星の評価を与えた。「非常に価値のある作品で、編集と撮影も見事。ベテラン俳優のランス・ヘンリクセンの演技が素晴らしい」。ニューヨーク・タイムズ紙の批評家はモーテンセンのコラボレーター、デヴィッド・クローネンバーグが肛門外科医を演じて短いコミカルなカメオ出演していることを賞賛して「実際の親と理想とする親との違いを埋めるための努力を痛感させる映画のバランスを取るのに役立っている」と書いている。
備考
Perceval Pictures "Falling"のページ
https://www.percevalpictures.com/perceval_pictures_falling.html おまけ
ウォータータウンのマスタード・シード・ナチュラル・マーケット&カフェのウェブサイト。
https://www.themustardseedonline.com/ 元の記事はこちらです。
https://www.syracuse.com/entertainment/2021/02/viggo-mortensen-says-new-movie-is-a-salute-to-upstate-ny-family-dementia-battle-interview.html