ヴィゴ・モーテンセンの新作は好きで作った西部劇

Apr 24, 2024 21:24



主演も兼ねるヴィゴ・モーテンセンが製作・脚本・監督を務めた"The Dead Don't Hurt"は、ある女性の体験を中心に据えて西部劇のジャンルを解釈した作品だ。

ヴィゴ・モーテンセンはずっと西部劇を見てきた。どの作品が彼にとって最も重要だったかを尋ねられると、彼はお気に入りの長いリストからずらっと作品名を挙げた。『赤い河』『駅馬車』『牛泥棒』...そして今、わずか監督2作目で自分の西部劇を作り上げた。

1860年代のアメリカ辺境を舞台にした"The Dead Don't Hurt"は、フランス系カナダ人のヴィヴィアン(ヴィッキー・クリープス)とデンマーク移民のホルガ―(モーテンセン)が出会い、交際を始めるという物語を追っている。彼らのロマンスは暴力を背景に展開し、'オルセン’として知られるホルガーが戦争に行ってしまうと、残されたヴィヴィアンの体験に焦点を当てている。

モーテンセンは"The Dead Don't Hurt"を監督しただけでなく、前作『フォーリング 50年間の想い出』同様に脚本・製作・音楽も手がけた。監督に話を聞くと、この作品は彼にとって好きでした仕事であることは明らかだ。私達の現実とはかけ離れた時代と場所を舞台にしているが、愛・戦争・男らしさ・暴力といった先見性のあるテーマを取り上げている。

このインタビューでモーテンセンは、このプロジェクトについてさらに詳しく掘り下げて、"The Dead Don't Hurt"がどのように実現したか、LOTRが監督としての彼に与えた影響、そして観客がこの作品から何を感じ取って欲しいかを語る。



テッド・スタンフィールド(以下TS):あなたが西部劇というジャンルに惹かれた理由から聞かせてください。

VM:同世代の多くの少年と同じように僕も西部劇をたくさん見て育った。今の子供たちが映画館やテレビで見るよりもずっとたくさん。大人になってからも、子供の頃見たものを見直したり、見たことがなかったものをたくさん見つけたりして見続けている。そのほとんどはどのジャンルでも言えることだけれど、いわゆる良くできたオリジナルのストーリーとは呼べないものだ。でもぱっとしない多くの作品にも一見の価値があって、学ぶことのできる物語の要素や演技、風景がある。"The Dead Don't Hurt"の撮影に備えて何百本もの映画を見た。セット・デザインや馬術、衣装、撮影などに役に立つディティールがたくさんあって、その多くを撮影の準備のためにチームのメンバーと共有したんだ。

TS:最も重要だったのはどの作品ですか?

VM:全体的または部分的に勉強になり、楽しいと感じたものはたくさんある。リストが長過ぎてしまうと思う。僕が評価しているリストのほんの一部だけれど、このジャンルのファンにとっておそらく最も良く知られているタイトルは『赤い河』『駅馬車』『牛泥棒』『七人の無頼漢』『ディシジョン・アット・サンダウン』『リバティ・バランスを撃った男』『四十挺の拳銃』『脱獄』『アウトロー』(クリント・イーストウッド監督)『無法の拳銃』『ミズーリ・ブレイク』『ギャンブラー』(ロバート・アルトマン監督)などかな。

TS:そういった古典に何をつけ加えたかったのでしょう?どのような西部劇を作りたかったのですか?

VM:何か特別に新しいものを加えたり、このジャンルの中で新たに考案しようと意識したわけじゃない。僕たちの主な目的は、上手く書かれ、誠実に演じられ、効率的に撮影された映画を作ることだった。(ハワード・)ホークスや(バッド・)ベティカーがやったような、かなり単純な方法で撮影されていて、登場人物や建物・武器・馬術そして風景の見た目が物語の舞台となった時代に忠実であるよう、あらゆる努力を払った。おそらくほとんどの古典的な西部劇とは違って珍しいのは、僕たちは主人公の女性キャラクターに焦点を当てていて、男性パートナーが戦争に行った後も彼女と一緒にいるところだろう。



TS:この映画はお母さんのために書いたと聞きました。それについて教えて下さい。

VM:2020年コロナのロックダウン中、"The Dead Don't Hurt"を書き始めた時、最初に浮かんだイメージは母みたいな女の子が、母が子供の頃に知っていたような楓の森の中で1人で遊び、夢見ている姿だったんだ。

TS:なぜヴィッキーをヴィヴィアン役にキャスティングしたいと思ったのですか?彼女との仕事はいかがでした?

VM:この役にヴィッキー・クリープス以上の人は想像できなかったから彼女がこのキャラクターが気に入って演じたいと言ってくれた時、僕たちはとてもうれしかった。彼女は仕事へのアプローチがインスピレーションに溢れていて、とても独創的だ。完全に集中していて気を抜いたりしない。

TS:ホルガーがヴィヴィアンにフランス人かと尋ねると、ヴィヴィアンが「いいえ、アメリカ人です」と答えるのが面白いと思いました。この映画で移民やアメリカ人のアイデンティティについてどのようなコメントをしたかったのでしょうか?

VM:特にコメントはないよ。この映画がある程度示しているように、アメリカには当時でさえ多様性に富んだ人々が住んでいて、英語を話さなかったり他の言語の訛りがあったりしても、他の人と同じようにアメリカ人になり得たんだ。

TS:あなたはアメリカ人のアイデンティティをどのように受け止めていますか?

VM:受け入れているよ。

TS:ホルガーはあなたと同じデンマーク人ですが、彼のキャラクターにデンマーク人のどのような面を取り入れたのか興味があります。

VM:ホルガーというキャラクターを組み立てるために、僕の知っている人、僕の父・祖父や僕が知っていたり聞いたことがあったり読んだことのあるデンマーク人の側面を利用した。このキャラクターには独特の静かな頑固さやドライなユーモアと皮肉のセンスがある。彼はまた人として学び、着実に成長しようとする意欲がある。ヴィヴィアンが彼の養子のリトル・ヴィンセントにフランス語で話すのと同様に彼はデンマーク語でおかしなことを話すんだ。これは自然で理にかなっていると思うし、家族関係に現実的なディテールを加えていると思う。



TS:幼いヴィヴィアンが母親になぜ男たちは戦うのか尋ねると、彼女は「複雑なのよ」と答える場面が興味深いと思いました。この映画では男らしさのどういった点を探求したかったのですか?

VM:父親や夫、息子たちが男性的な戦争を戦うために赴いた時、残された女性たちには何が起こるかを探りたかったんだ。そしてヴィヴィアンのような少女が何を感じ、考えるかということを。

TS:この映画の音楽を作曲しましたね。なぜ手がけようと思ったのですか?プロセスについて教えて下さい。

VM:最初の映画『フォーリング 50年間の想い出』でも作曲した。ある意味そうすることが現実的で費用がかからなくて済むから。クリエイティブな面で言えば、音楽の大半を撮影前に作曲し、録音しておくことで多くのシーンの長さやリズムを設計するのに役立った。撮影前に多くの音楽を作曲するのは直感に反するように聞こえるかもしれないけど、どちらの映画でもそれが撮影と編集の指針として役立つことがわかったんだ。

TS:LOTRでの経験が、俳優としてだけでなく脚本家・監督としてあなたにどのような影響を与えたのか知りたいです。

VM:PJと彼のチームが物理的および物流面での難題を克服し、その過程で映画製作上の問題に対する独自の解決策を見つけ出したことは、あの3本の映画の長い撮影に参加した僕たち全員にとって素晴らしい学びの経験だった。ニュージーランドでの大規模なプロダクションのために、みんなが本当に力を合わせて仕事をしたことは僕たちに多くのインスピレーションを与えてくれた。まるで常に前進し、進化して改善しようと努力する大きくて実践的な映画学校のようだった。

TS:アラゴルンというキャラクターとの関係は今、どうなっているでしょう?

VM:掘り下げるのに一番長い期間を与えられた役で、あのキャラクターに取り組んだことはとても良い思い出だ。特に、幸運にも毎日一緒に仕事をする俳優やスタッフの間に生まれた友情はね。

TS:LOTR同様、この作品でもたくさん馬に乗っていますね。"The Dead Don't Hurt"のクレジットに馬が含まれているのに気づきました。馬に対するあなたの愛情について教えて下さい。

VM:僕は幼い頃に乗馬を覚えて、いつも馬のそばにいるのを楽しんでいる。それはもちろんLOTR3部作で馬に乗るシーンでも"The Dead Don't Hurt"でオルセンを演じるのにも役立った。馬について、また馬上や馬の周囲で人がどのように振る舞うべきか理解していることが、この映画を監督し編集するのに役に立ったよ。



TS:この映画の撮影は特に自然の風景がとても美しいですね。こういった自然のショットを含めるのがなぜ重要だったのですか?

VM:このストーリーを撮影するにはどちらも(訳注:カナダとメキシコのことだと思われます)現実的で魅力的な場所だった。物理的な風景は多くの映画、特にほとんどの西部劇で重要なキャラクターだ。マルセル・ザイスキンド(撮影監督)は僕たちが目にしている場所を、カメラがどう風景を見ているかに余計な注意を払うことなく、明快で美しく見せるという素晴らしい仕事をしてくれた。ほとんどの古典的な西部劇で見られるような、的を得たこれ見よがしじゃない方法でね。

TS:この映画から観客に何を感じ取って欲しいと思いますか?

VM:オルセンと僕たち映画製作チームのようにヴィヴィアンと恋に落ちて、男女の関係について考えたり感じたりして欲しい。戦争がもたらす浪費や悲しみについても考えて欲しい。この映画を見て、もっと西部劇を見たいと思うようになって欲しいね。

元の記事はこちらです。
https://www.anothermag.com/design-living/15459/the-dead-dont-hurt-film-review-viggo-mortsensen-vicky-krieps-interview

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