配られたカードで勝負する:ヴィゴ・モーテンセンはハリウッドで最も多才なスター?

Feb 19, 2024 22:22

俳優、監督、詩人、ミュージシャン、写真家、出版者...このアメリカ人が手がけない創作活動はない。リサンドロ・アロンソとの "不思議な "作品、そして意図せず自身の映画に出演したことについて語る。

ヴィゴ・モーテンセンは多忙な人だ。俳優であるだけでなく、詩人、ミュージシャン、写真家であり、小さなアートハウス出版社の実務に携わるオーナーでもある。出版社のウェブサイトでは世界中の報道機関から集めた喫緊の問題に関する情報を定期的にアップデートして公開している。ニュースの合い間には彼が尊敬する思想家の格言が挟み込まれている。「忙しいというだけでは十分ではない。蟻だって忙しいのだ。問題は私たちが何に忙しいのかということだ」というヘンリー・デヴィッド・ソローの一文が、地下水の損失に関する記事に添えられている。

これは明らかにモーテンセンが定期的に自問している問いだ。LOTRのアラゴルン役でブレイクする少し前には、同じ役を延々と演じることになりたくないという理由でX-MENへの出演を断った。彼はオスカーに3度ノミネートされ、58本の映画に出演したベテラン俳優であり、デヴィッド・クローネンバーグが監督した『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の秘密を抱えたダイナーの主人トム・ストールからコーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』の映画化で地獄のような世界で生き残る父親、『グリーンブック』で用心棒から運転手になったトニー・ヴァレロンガまで幅広いキャラクターを演じて忘れられない印象を残している。

彼が忙しいのは監督業にも転身したためで、2作目となる"The Dead Don't Hurt"という西部劇のプロモーション中でもあるからだ。彼が監督と主役であるだけでなく、脚本と作曲も手がけていることを考えるとこれは大仕事だ。しかし彼はアルゼンチンのリサンドロ・アロンソ監督による低予算の映画"Eureka"をきちんと扱おうと決意している。この映画ではポスターの最初に名前があるものの、彼はモノクロの映画中映画で無法地帯の辺境の町にやってくる孤独なガンマンを演じて、ほんの短い間しか登場しないのだが。

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彼が1年の一部をパートナーの俳優アリアドナ・ヒルと一緒に暮らしているマドリードで早朝の電話インタビューに応えてもらうまで数日かかった。しかしようやく電話がかかってくると、彼は時間を惜しまずに思慮深い答えを返してくれた。

彼の"Eureka"へのを関わりを理解するには2014年にアロンソ監督と組んだ『約束の地』を見ておくと良い。アロンソにとって初めてプロの俳優が参加したこの作品で、モーテンセンは19世紀後半にアルゼンチンのパタゴニアにある荒々しい開拓地で軍を助ける契約を結んだデンマーク人技師グンナー・ディネーセンを演じた。"Eureka"での役柄同様ディネーセンは見つけられたくない娘を探している。両方の映画で娘をヴィルビョーク・マリン・アガーが演じているが、アロンソの定義しづらい作品の熱烈なファンは、これが何を意味するのかと考えるだろう。

モーテンセンとアロンソは2006年のトロント映画祭で偶然出会い、意気投合した。「僕は11歳までアルゼンチンで育ったので仲良くなったんだ」と彼は言う。デンマーク人の父親とアメリカ人の母親は、彼が幼い頃、養鶏場を経営するためアルゼンチンに移住したのだ。「後になって僕たちには共通点があり、共通の友人もいることがわかった。」



友人の1人は詩人のファビアン・カサスで、彼は後に『約束の地』の脚本を書くことになる(そして"Eureka"ではアロンソ、マルティン・カマーニョと共同で脚本を執筆している)。「脚本を読んで面白いと思ったので、デンマークとアルゼンチンが融合したこの不思議なハイブリッド映画を作るために協力した」とモーテンセンは語る。アロンソが、映画に音楽をつけたいが資金がなくなってしまったと話すと、モーテンセンは音楽も提供すると申し出て、元ガンズ・アンド・ローゼスのギタリストのバケットヘッドと作った数枚のアルバムを再利用した。

現代のサウスダコタ州にあるネイティブアメリカンの居留地を実質的な舞台とした"Eureka"へのモーテンセンの関与は当初思われていたほど小さくないことがわかった。居留地で暮らす人々にアロンソを紹介したのは彼で、そのうち何人かはこの映画でスクリーン・デビューを果たした。彼が特に誇りに思っているのは、本職も警官で、映画の中でも行き止まりの道をパトロールする人生を見事に演じたアライナ・クリフォードだ。

モーテンセンとラコタ族の人々との関係は数十年前にさかのぼる。彼は初期のアメリカ史にずっと興味を持っていたが、2004年西部劇の伝記映画『オーシャン・オブ・ファイヤー』を製作中にさらに興味を惹かれる機会を得たという。「(ラコタ族の)人々を理解したかったので彼らと一緒に馬に乗り、最終的にはある家族の養子になって、彼らの言語で名前をつけてもらった。知り合えて幸運だった」と彼は言う。「正当な理由があって彼らは自分たちの生活の中に他人を入れることを非常に警戒しているんだ。」 彼に与えられた名前はペタユハマニ。つまり「火を運ぶ者」だ。

『オーシャン・オブ・ファイヤー』では1890年にラコタ族の人々をキャンプ地から立ち退かせようとして失敗し、300人近くが米軍に射殺されたウンデッドニーの虐殺を描いている。この事件は儀式的なゴーストダンスで追悼され、映画の中でもそれが再現された。モーテンセンはその踊りにとても魅了されて写真を撮る許可を求めた。彼は撮った写真を1冊の本(訳注:”Miyelo”)にまとめた。その本は彼の出版社パーシヴァル・プレスから、パンデミック中に書かれた63ページの詩の本を含む3冊セットで発売されている(訳注:"Miyelo"単独でも購入できます)。

モーテンセンはLOTRで得た資金で2002年にパーシヴァル・プレスを創設した。芸術、批評、詩を専門として、彼のアルバムも販売しているが、そのサイトには個人的なファンレターは読まれないし返却されないという厳しい警告が掲載されている。本社はカリフォルアにあり、息子のヘンリーが俳優として働く合い間に仕事を代行しているが、本の印刷はスペインで行われている。「それぞれの本を編集するだけでなく、印刷所に行って刷り上がったすべてのページを確認している」と彼は言う。

出来ることは自分でやるというのは彼のキャリアの中で繰り返されるテーマだ。"The Dead Don't Hurt"では主演男優が土壇場で降板したため、自分自身を主演に起用することになった。「資金を失ってしまわないよう、大急ぎで配役を代えようとした」と彼は話す。「脚本やキャラクター、(主役の)ヴィッキー・クリープスと仕事をするというアイデアをとても気に入ってくれた2、3人に当たってみたが、ちょうどメキシコで製作準備段階が始まるところでもう遅すぎた。」

この役を演じることは、脚本の大幅な書き直しを意味した。モーテンセンは60代半ばで、想定していた役柄よりもかなり年上だったからだ。自分自身を監督するのはよけい疲れると言うが、彼はいつもチームプレイヤーだった。「そのシーンに出演していれば、監督が演技の手助けをするのとは別な意味でチームプレイヤーだ。だから疲れるけれど肉体的には刺激になるし、いずれにせよそれが配られたカードなんだ。できる限り上手く行くように努力するし、実際僕たちはそうしたと思うよ。」



その思いがけない選択と率直な政治的意見の組み合わせのために、彼は熱心な支持者を獲得している。2016年の本紙のインタビューで彼はドナルド・トランプ、そしてヒラリー・クリントンをひるむことなく批判していた。トランプが2期目の大統領に向かうかもしれない今、彼はどう感じているのだろう?「僕はアメリカ人だし、アメリカで多くの時間を過ごし、息子と一緒にいることが多い」と彼は答える。「アメリカの人や動物、風景に反感を持つ理由は何もない。でも多くの人と同様、政府や政治には問題があると思っている。だがアメリカであれ、イギリスやスペインであれ、これまでに存在したどの帝国についても当然そう感じるだろう。”もしトランプが再選されたらカナダに移住するかパスポートを返上する”という人の気持ちはわかるが、僕自身はそうは思わない。」

伝統的な語り口にとどまることを物憂く拒否し、ある長老の言葉を借りれば、時間ではなく空間に対するより賢明な世界の見方を示している点で、"Eureka"は欧米のストーリーテリングの常識に対する構造的かつ気質的な反論を提示しており、モーテンセンのちょっと変わった趣味とも一致する。とはいえ、監督として彼とアロンソは大きく異なる。「僕は細部に関してある種論理的であることを好むけれど、彼はもっと視覚的な感性を持ってる。光とかフレーミングとか。僕たちはお互いに補い合っていると思う。」

彼はアロンソの映画が万人受けするものではないことをわかっている。「何が起こっているのか理解できないとか、なぜこんなにゆっくりなのかという人もいる。でも僕はリサンドロの人々の扱い方が好きなんだ。彼が物語のアイデアを視覚的にスクリーンに映し出すやり方はとても大胆だ。彼と同じことをしようとする人は他にもいるけれど、見せかけだったりこれ見よがしだったりする。彼の場合は、伝えたい種類のストーリーや伝えたい方法が自然に感じられる。彼のような監督は他にいないよ。」
そう言ってモーテンセンはまた違うプロジェクトの一つに火を運んで行くのだ。

元の記事はこちらです。
https://www.theguardian.com/film/2024/feb/08/you-play-the-cards-youre-dealt-is-viggo-mortensen-hollywoods-most-versatile-star?CMP=twt_a-culture_b-gdnculture

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