The Diver

Jan 04, 2008 08:22



Football (StevieG / Xabier A.O )
Disclaimer: Lies 
A/N:新年に相応しい作品を書こうと思っていたのに、思いつきでこれを書いてしまいました。

スティーヴンに以前言われたことで、シャビが否応なしに意識させられているのは、「おまえは他のスペイン男とは違う」という一言だった。そう言われたのは、ドレッシングルームで着替えていた時で、二人ともほぼ全裸の状態。スティーヴンは真っ白いソックスを左のおみ足に履かせている最中だった。リヴァプールのキャプテンが普段意識していないエロティックな癖の一つは、何も身につけないうちに、洗い立ての清潔なソックスを二本の脚に履かせてしまうことだったが、シャビがそのことを本人に指摘しようと思ったことは一度もない。シャビは自然の状態をありのままに受け入れ、愛することができる男だった。
 スペイン男、という不思議な響きに違和感と興奮を覚え、彼はキャプテンが器用にソックスを履き終わり、続きを話してくれるのを待った。セックスに関する話だろう、と早合点していた。多分スティーヴンは「満足している」ことを暗に伝えようとしているのだろう。嬉しい反面、彼が〝他のスペイン男〟を味わったことがあるのか、気がかりだった。
 スティーヴンは普段呆れるほど冗談好きだが、根は真面目なやつなので、彼が男を選り好みしては寝まくっているなど、とても信じられなかった。
「ぼくのどこが、他の〝スペ公〟と違うんだ」
 痺れを切らし、シャビは訊ねた。
「スペ公?」スティーヴンは慎重な笑みを浮かべ、愛人を窺うように見た。
「冗談。前の試合で君、セスクにそう怒鳴ってたからさ」
「ああ、だってあの野郎、ちょっと押されただけで派手にひっくり返りやがるからさ。おれが言いたいのは、それだよ、シャビ。スペイン人やイタリア人ってのは、ズルをしてでもファウルを取ろうとする。おれだって、聖人じゃないぜ? でも時々見てるこっちがこっぱずかしくなるような演技を、連中はするんだ」
 ソックスを履き終わると、スティーヴンは両膝を軽く叩いた。
 なんだ、そういう意味だったのか。
 シャビは落胆を表に出さないよう注意しながら、
「昨日の練習中、フェルナンドに対してずいぶんガツンとやってたよな、君。あれはやり過ぎだったんじゃないか」
「そんなことないさ。おまえも見ただろ、ゴール前であいつがばかばかしいダイヴをしたのを。試合中ならおれだってあんなに怒らなかった。だけど、練習中にチームメイト相手に、ありゃやっちゃいかんよ」
「ぼくは違うって?」
 シャビは微笑んだ。
「おまえは、違うじゃないか。どっちかって言うと、避けるのがヘタクソなくらいだろ。今度マスチェラーノの爪の垢でも飲ませて貰えよ」
「心外だな。それじゃぼくが、ニブいやつみたいだ」
「違うのか?」
 スティーヴンは笑った。彼は人を茶化すチャンスを逃さない。
 君は間違ってるよ、スティーヴン。
 シャビは心の中で呟き、愛人に素早くキスをした。スティーヴンは突然の事に一瞬怯み、背にしたロッカーに後頭部をごつんとぶつけた。
 ウィガン戦、タチが悪いことで有名なブラウンが、警告をくらった時にシャビに向かってどんな暴言を吐いたか、スティーヴンは知らないようだった。
「またまた上手くやったな、スペ公? あのハゲをまんまと騙しやがって。実際はカスリもしてねえってのに。相変わらずおまえの演技には脱帽だよ。おまえとやり合う度、こっちのお株が下がるんだからな。今度ぜひ、爪の垢でも飲ませてくれよ?」
 ブラウンはそう言ったのだった。
 所詮は負け犬の遠吠えだと、誰もが思い込んでいる。真実を知っているのは、ブラウンとシャビだけだ。
「待てって、シャビ……」
 ベンチに押し倒されると、スティーヴンは恥ずかしそうに拒絶の姿勢を見せた。だがシャビはとっくに彼の腹の上に乗っていた。ダイヴして誤った場所に着地してしまったが、彼自身、身に覚えがないような顔つきで。 
「本当はな、スティーヴン」スティーヴンの下半身に指を這わせながら、彼はささやいた。「君が思っている以上に、ぼくはこいつが得意なんだぜ」
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