Dec 14, 2007 07:16
14) Little Boy Blue
Actor/Football RPS,AU(L.Messi & VM)
Disclaimer: they are not mine.
メッシが12歳の時、祖母が彼を呼び寄せて朝刊の切り抜きを見せた。祖母は脚が悪くいつも杖をついて歩いていた。それに、よく煙草を吸っていたものだった。記事はコパ・アメリカで一躍有名になったロナウジーニョ・ガウーショの前歯に関するもので、ある記者が「なぜ出っ歯を治さないんだい?」と訊ねたところ、後世のスーパースターは「こんな素晴らしい歯をなぜ治す必要があるんだ?」と言い返した、という他愛もない内容だった。
「彼はブラジル人だよ!」記事に添えられた写真を見るなり、メッシは驚いて言ったが、祖母は「それはいいんだよ、そんなことは」と言って取り合わなかった。そして小さな孫に「いいかい、この出っ歯だよ。お世辞にも見た目がいいとは言えないだろ? だけどこの若い選手は、そんなことちっとも気にしちゃいない。彼の歯も、あたしの脚も、寸足らずのあんたの体だって、神様が授けてくださったんだからね。それだけで感謝しなくちゃ。あんたは小さく生まれた、でもそれが何だってんだい? あんたの才能はね、神様に愛されている証拠なんだよ」
そう言ったのだった。
メッシは元々成長ホルモンの病気だったが、その日以来、試合中に上手くプレーできなかったとしても、身長を言い訳にするのはやめた。
13歳の時、彼は庭で木登りをしている最中に、手を滑らせててっぺんの枝から落下した。だが、地面に叩きつけられることはなかった。気がつくと、身体が宙に浮いていたからだ。彼は自分が特別な存在だということに気がついた。まもなく、心に思い描いた通りに空を飛べるようになった。その秘密の能力を周囲に悟られぬよう駆使して試合に勝つことに慣れ始めると、テクニックを磨くことなどあまり重要なことではないように思えてきた。
ある朝、メッシは庭の一番高い木に登って日の出を眺めた。空中で一回転して地上に降り立った時、庭に面した祖母の部屋の窓辺に人影が見えた気がした。祖母に見られたのではないかと、彼は気が気ではなかった(飛べることは家族にも内緒にしていた)。だが朝起きてくると、祖母は孫に「おはよう」と言っただけだった。
真実を知らされたのはその半年後、肺がんを患っていた六十七歳の祖母と、病室で最後に話した時だった。
「バルセロナだって?」がらがら声で、祖母はベッドに寝たまま言った。「いいじゃないか」
「でも、おばあちゃんが心配だよ」メッシは言った。皺の多い手を握りながら。
「心配しないで、行っておいで。テレビであんたの活躍を見ててやるから」
「テレビに出るなんて、まだ先のことだよ」
「そんなに先のことじゃないさ、あんたの場合はね」祖母は言った。静かに深呼吸し、「ただし、いいかい? 試合じゃ、ズルをしちゃいけないよ?」
メッシははっとして、顔を上げた。
「そりゃ、たまにはいいさ」祖母は片目を瞑って見せた。「でも、必要ない。あんたはズルをしなくたって、十分にやれるんだから。あんたは魔法が使える。でもそれはボールを二本の脚で上手く扱える技のことだよ。もしも……もしも、あんたが本当に魔法使いだとしたらね、その力は人を助けるために使いなさい。決して自分の好きなことに使っちゃいけない。なぜって、そんなことをし始めると、いずれ人生の楽しみが失われてしまうから」
彼がバルセロナのファーストチームの一員として、17歳でデビューした時には、祖母は既に他界していた。
メッシはストローをくわえると、思い出を心の奥へ流し込むためにLサイズのコークを吸い上げた。
「だからぼくは、ロニーがあの前歯を見せて笑うと、いつも幸せな気持ちになるんだ。彼の笑顔は最高なんだよ、誰が何と言おうとね」
そう言うと不意に真顔になり、急にチーズバーガーにかぶりついた。
「そうか」ヴィゴは頷き、窓の外の通行人を眺める振りをした。
そうすることで、口の周りのケチャップと一緒に眼に浮かんだ涙を拭く時間を、若い友人に与えた。
15) Something Wrong
ActorRPS,AU(DW & KU)
Disclaimer: they are not mine.
突然の縦揺れに襲われ、デイヴィッドはベッドで眼を覚ました。震度2か、3弱というところだろう。そのまま眠ろうとしたが、揺れが治まる気配がないので起き上がった。日中、勝手に上がりこむことが多い隣人が、今夜はリビングのカウチで寝ているはずだ。
デイヴィッドは階段の手摺に掴まりながら一階へ降りた。小刻みの縦揺れはまだ断続的に続いていた。地震ではないのかもしれない。そういえば昼間、一ブロック先の通りで道路工事をやっていた。
「カール、大丈夫か」
リビングの照明をつけた時、揺れが治まった。カウチに座っていたカールが飛び上がった。彼が床を這いずり回ってテレビのリモコンを探している間、デイヴィッドは『生本番ハメ撮り:痴漢車トーマス』のパッケージを手に取り,しげしげと眺めていた。
ようやくテレビを消した男の方に向き直ると、窓の外を指差した。
カールはジーンズと下着をずり上げ、ベルトを締めた。窓を開けた時、十五歳の友達から借りたDVDをデイヴィッドに返された。自宅にはDVDプレーヤーがないので、持ち帰っても観れないのだが。
カールは持参した枕で股間を隠したまま、犬が待ち構える庭をうまく横切って帰った。
16) An Unpredicted Future
Actor/Football RPS,AU(L.Messi & VM)
Disclaimer: they are not mine.
「あんたはどうなんだ?」
チーズバーガーを食べ終わったメッシが訊ねた。
「誰かに、予知能力の話をしたことは?」
「いや、ないよ」ヴィゴは答えた。
「誰にも?」
「ない……まあ、きみ以外にはという意味だが。面倒はご免だからな。なるべく目立たないようにやってきた」
「でも先の事がわかっちゃうと、未来を変えたいと思うんじゃないの?」
「子どもの頃は思ったな。でも今は、そんな大それたことは考えない」
「本当に? もし親しい人に災難が降りかかるとわかっても、何もしないの?」
「しないね」ヴィゴは口唇を歪めた。「本当のこと言えば、そこまで親しい知り合いもいない」
「孤独だねえ」十八歳の若者は同情的な口調で言った。「でもわかんないぜ。そのうち出会うかも」
「誰と?」
「秘密を分かち合いたくなるような相手とだよ」メッシは言った。「その人のためなら、未来を変えたいと思うような」
「ありえんね」
ヴィゴは笑った。別に面白くも何ともなかったのだが。