Heroes Series #4

Nov 22, 2007 03:01



12) A Dream Come True
Actor,Football,AU(Viggo.M & L.Messi)
Disclaimer: They are not mine.

「ママ……?」
 薄い瞼の向こうに光を感じ、眼を開けた。シェードランプが部屋を照らしている。四歳の少年は布団の下から出した眼を大きく見開いた。壁に影を投げかけている人物は、母親ではなかった。
 ポスターから飛び出してきたのだろうか? 
「……メッシ?」
「やあ」バルセロナのユニフォームを着たヒーローは優しくささやくと、ベッドの端に尻を乗せた。
「どうしてここにいるの?」と少年。
「君に会いに来たんだよ。元気になってもらいたくてね」
「ぼくの事知ってるの? ぼくの病気のことも?」
「ああ」メッシは床のボールを爪先で蹴り上げ、両手でキャッチした。「知り合いに聞いたんだ。ぼくの大ファンの男の子が、病気のせいで何ヶ月も外で遊べずにいるって。だから一緒に遊ぶために来たんだよ」
 少年は嬉しそうに布団の下から這い出たが、すぐに顔を曇らせた。
「でも、ママに見つかったら怒られるよ」
「大丈夫、君は見てなって」
 メッシは立ち上がった。足音も立てずにボールを両方の膝の上で自在に操り、少年がぽかんと口を開けて見守る中、今度は頭で受けた。彼は前屈みになり、ボールを背中に乗せた。
「すごいよ、メッシ」痩せた少年はベッドから上体を起こした。「今の、もう一度やって!」
 母親が物音を聞きつけて階段を登ってくるまで、メッシは少年と過ごした。窓から飛び立つ前に「元気出せよ」と声をかけると、ベッドの中の少年は親指を立ててみせた。
 メッシは街灯の下に停まっているダークブルーのセダンの元に降り立った。
「お帰り」
 助手席のドアを開けた若者に、運転席のヴィゴが言った。
「すごく喜んでたよ」
「ああ、夢で見たよ。たまにはこういうのもいいだろ」
「あの子、元気になるといいな」メッシはシートベルトを締め、少年の自宅の方を振り向いた。
 ヴィゴはルームミラーで背後を確認し、シフトレバーをドライヴに入れた。無言で車を発進させる。メッシには、夢の結末を話してはいなかった。
 その必要はない、と思っていた。少年の血液は癌に侵されており、クリスマスまでもたないという事実を、この親子ほども年が離れた純粋な若者に、知らせる必要はないはずだった。

13)  More Than Just A Captain
FootballRPS AU(Liverpoolians)
Disclaimer: they are not mine.

うちのキャプテンには超能力がある。
 というのが、リヴァプールの選手たちの一致した意見だった。フェルナンド・トーレスはまず最初に、その話を同じスペイン代表の友人であるシャビから聞いた。彼がリヴァプールから移籍のオファーを受けるより前の事だ。
「何がスゴイってな、フェルナンド。彼は人の心を操ることが出来るんだ。まるで超能力さ」
「へえ」熱弁を振るう先輩を半ば放っておき、トーレスはニンテンドー64ポータブルをやっていた。
「スティービーにかかれば、普段は素行の悪い若い連中……あ、誰とは言わないけど……もさっぱりした感じの優等生だ」
「襟を正すってやつ……? ねえ、襟を正すって言い方、するよね?」
「彼のもとでは、実力以上のものを発揮してしまうっていうかさ、肉体の奥から不思議とパワーが湧いて来るんだよ」
「あんたはどうなの?」
「おれ?」シャビは照れながら言った。「……おれも彼の気持ちしだいかな」
 縁あってリヴァプールに移籍したその年のクリスマス・パーティで、トーレスは心を操ることが出来るキャプテンのお手並みをまざまざと見せつけられた。
「ダニー、ビール持って来い!」
「はいっ!」
 スティーヴン・ジェラードが貸切クラブの奥から叫ぶと、セーラームーンのコスプレ姿のアッガーが、ビールを取りに嬉しそうに走っていった。キャプテンの両脇にはKISSのコスプレ姿があまりにも似合わないカラガーと、怪傑ゾロの覆面とマントを身に纏ったヒューピアが座っていた。
「おい見ろよ、ロミュラン人の登場だぞ! そっくりだな!」
 カラガーが指差した入口からヨッシ・ベナヨウンが現れた。
「やっちゃったよ、切っちゃった。友達のスタートレックファンに全部任せたら、本物そっくりで自分でも驚いた。ちなみに、トモロク司令官ね」
 ベナヨウンは地毛である黒い前髪を切り揃えていた。
「今年はレベルが高いな! カイトのスーパーマンもバッチリだし、ペナントのフラッシュも決まってるぞ! 正直、仮装王ルイス・ガルシアがいなくなって心配してたんだがな」
 満面の笑顔のキャプテンは、今年は意表をつくディズニーアニメ版白雪姫の恰好だった。彼はスカートを履いていることをすっかり忘れ、大股を広げてソファにふんぞり返っていた。
「ぼ、ぼくはどうっすか、キャプテン……」
 無意識のうちにミニスカートの股間を庇うアッガーを上から下まで眺め回し、キャプテンは「いい!」と太鼓判を押した。彼が端から寸評し始めると、誰もがそわそわと自分の番を待った。
「……シャビ、その恰好はなんだ!」
 ハンサムなスペイン人に眼をとめ、キャプテンは怒鳴った。
「え? スターウォーズに出てくるストームトルーパー……帝国軍の兵士で反乱軍を苦しめたやつら」
「そんなのはキャラクターじゃないだろう! 周りを見てみろ、お前だけ浮いてるじゃないか!」
 キャプテンは立ち上がり、毒リンゴを投げつけた。あいつまただぞ……一応ジャンゴ・フェットとか答えておきゃいいのに……誰かが呟く声が聞こえた。
「何度言えばわかる! おれはこの日のために一年頑張ってんだ!」
 機嫌を損ねたキャプテンは席につくと、気分転換に手品をやるよう、フィナンに命じた。
 頬で毒リンゴを受け止めたシャビは、床に倒れながら涙交じりの声で言った。
「スティービー、わかってくれよ……君にこんな仕打ちを受けたら、おれは次も、その次も頑張っちゃうよ……おれなんて、君の気持ちひとつなんだ」
「こんなの超能力でも何でもねえよ!」
 たまご型の謎めいた着ぐるみの中で、トーレスは吐き捨てた。

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