Voice in the Heart   SIDE-2 chapter2

Feb 16, 2016 20:46


このFicで私が一番書きたかったのは、
実はおまけのベッキオとコワルスキのやり取りでした。
このシーンだけは思いついてから、すごく幸せな気分になってしまって。
フレイザーの小言を嬉しそうに聞くベッキオってイメージ。
なんだか「The Blue Line」の最初の車のシーンみたい。
「また一時停止を無視した」って細かいことに愚痴愚痴言っているフレイザーを嬉しそうにかわすレイ。
だけど傍から見てるともうむっちゃいらつくと思う、勝手にやってろって感じで。
かわいそうなコワルスキ。

あと、ラストシーンのベッキオとコワルスキも何だか書いていて楽しかったです。
あれ~?私ってフレイザー/ベッキオ派じゃないのかな?
この調子だとベッキオ/コワルスキも書けそうな気がしてきました。
それぐらいラストシーンを私は気に入ってしまってます…。困ったな…。


Voice in the Heart   SIDE-2 chapter2

「冗談でしょう?」
リジンスキがコワルスキの言葉に目を丸くした。
 「本当だって。フレイザーはベッキオに恋してる。」
 「あぁ、やめてよ。そんなことだから女が余っちゃうのよね。」
コワルスキは首を横に振った。真剣そのものの硬い表情で、身を乗り出す。
 「俺がここ数日、フレイザーの恋の悩みってやつにどれほど悩まされているか、もういい加減にしろって叫びだしそうなんだぜ。」
リジンスキが眉をひそめた。
 「フレイザーはベッキオに言わなくちゃならないってずっと思い込んでいるんだ。愛してるって。だけど、その想いがあまりに強すぎて、もう簡単には言えなくなっちまってるって言うんだ。どう思う?」
 「どうって、わからないわよ。そんなこと、想像したこともなかったし、私の目には普通に見えたし…いいえ、ちょっと待って。」
 彼女が何か思い出したように考え込んだ。
 「そういえば、いつもフレイザーが帰ったあと、レイったらため息をつくの。なんだか、すごく切ないため息…。二人の間には、確かに妙な緊張感が漂っているわね。」
 「やっぱり。ベッキオもフレイザーのこと好きなんだぜ。だからナディアに協力して欲しいんだ。」
 「協力?」
コワルスキが頷いた。
 「俺はもうフレイザーのわけのわからない悩みにはつきあいたくない。だから、決心したんだ。どんな汚い手を使っても、あの二人をくっつける!」
 「あなたも物好きね…。いいわ、私は何をすればいいの?」
 「ベッキオの気持ちを探って欲しいんだ。俺じゃベッキオの奴、絶対に素直になんてならないからな。」
リジンスキが笑顔で頷いた。
 「わかった。なんだか楽しくなってきちゃった。喜んで協力するわ。」
 二人は顔を見合わせ、軽く乾杯の真似事をした。

その日もフレイザーを車から降ろすと、コワルスキはこっそりと彼の後をつけた。
 赤い制服がベッキオの病室に入るのを見届けると、出てくるのを物陰に隠れて待つ。
フレイザーはすぐに出てきた。そして誰もいないと油断したのか、がっくりと項垂れる。
コワルスキはそっと後ろから近づいた。フレイザーの背中を押すと物陰に連れ込む。
 「レイ?何しているんだ?」
フレイザーが驚いて、声を上げた。
コワルスキが唇に指を当てて、ベッキオの病室を伺う。何こともなく静まり返っているのを確かめると、フレイザーを促して階段を上った。

ベッキオはフレイザーが早々に帰ってしまうと、いつものごとく切ないため息をついた。昨日のあのこと以来、余計にフレイザーを意識してしまう。
そんな自分をリジンスキが好奇心に溢れた目つきで見つめていることなど知りもしないで、ベッキオは辛そうに目を閉じた。
 「元気ないわね。」
その声に彼女がまだ側にいたことを思い出す。
 「傷が痛むんだよ。」
 「そのようね、あなたの傷はここね…。」
リジンスキが胸を指した。
 「そう、胸を撃たれた。」
 「じゃなくてその中。心の問題…。」
ベッキオは怪訝そうに眉を寄せた。
 「今日は天気もいいし、日光浴しましょう。」
そう言うと、彼女はベッキオに手をかして車椅子に座らせると、強引にエレベーターに乗せた。

コワルスキはフレイザーを連れて屋上に出た。
 「また今日も言えなかったのか?」
フレイザーは力なく項垂れている。
 「辛いな…。」
 「うん、もう、どうしたらいいのかわからないよ。」
コワルスキがフレイザーの肩を叩いた。
 「俺をベッキオだと思ってちょっと練習してみな?んで、ベッキオの前に出たら、ベッキオを俺だと思うんだ。そうすりゃ、ちょっとは言い易くなるんじゃねえかな?」
 「そんなに上手い手だとは思えないけど。」
 躊躇しているフレイザーの向こうに、車椅子に乗ったベッキオの姿を見つけ、コワルスキは唇の端で笑った。
 「とにかく、ベッキオに愛してるって言いたいんだろう?練習さ、ただの練習。」
 「わかった、やってみよう。」
フレイザーは姿勢を但し、制服の乱れを直した。じっと真面目な表情でコワルスキを見つめると、がちっと彼の肩に手を置いた。
その迫力にコワルスキが一瞬ひるむ。
 「レイ、愛してるよ。君が必要なんだ。ずっと僕の側にいて欲しい。」
フレイザーの口からはすらすらと澱みなく言葉が出てきた。
コワルスキの体から力が抜ける。
 「おいおい、いやにすらすら言えるじゃねえかよ!」
 「だって相手は君だから、何だって言えるよ。」
 「そうか…、じゃ、返事だ。」
コワルスキは調子に乗って、フレイザーに抱きついた。わざとらしい大声で叫ぶ。
 「俺も愛してるぜ、フレイザー。」
 「レイ、調子に乗りすぎだ。レイがそんな反応を返すとは思えないよ。」
 「わかんないぜ。今のをそのままベッキオに言えばいいんだよ。」
じっとコワルスキの顔をフレイザーは見つめた。
そしてがっくりと肩を落とした。
 「だめだ…。レイだと思うと胸が苦しくなる。」
コワルスキは自分の肩を押さえているフレイザーの両手を荒々しく払いのけると大きく息を吐いた。
 「だめだ、こりゃ…。」

「レイ、愛してるよ。君が必要なんだ。ずっと僕の側にいて欲しい。」
ベッキオははっきりとその言葉を聞いた。
 自分の耳が信じられなかった。フレイザーが、コワルスキを抱きしめて、彼にそう囁いている?
 目の前が真っ暗になった。ベッキオの耳にはその言葉以外、もう何も聞こえなくなっていた。世界が崩れ落ちたような最悪の気分だった。
 「レイ?大丈夫?」
リジンスキが真っ青なベッキオの顔に驚いて声をかけた。
ベッキオは静かに瞳を閉じた。
 「部屋に帰りましょうか?」
そのまま彼女に車椅子を押されながら、ベッキオは深い絶望の中にいた。
 「あれでいいんだ…。」
ベッドに横になりながら、ベッキオは呟いた。
 「何?」
リジンスキが声をかける。
 「いや…、なんでもない。」
 彼女はベッド脇に腰掛け、じっとベッキオの様子を伺っていた。
 「ねぇ、話してみて。私はこう見えてもカウンセラーの資格も持っているの。きっとあなたの役に立てると思うわ。」
 「必要ない。」
 「一人で抱え込まないで。誰かに打ち明ければ楽になれるわ。」
ベッキオがリジンスキを睨んだ。じっと彼女の瞳を見つめる。
 「あんたに言ってももうどうにもならねえんだよ。」
 「話せば乗り越えられることもあるわ。ねぇ、フレイザーのことなんでしょう?」
ベッキオは怪訝そうに眉を寄せた。
 「なんのことだよ。」
 「あなたとフレイザーの間には妙な緊張感が漂っている。それにフレイザーがコワルスキに愛しているって言ったのを聞いて、あなたは真っ青になった。彼をどう思っているの?」
 「友達だよ。」
 「レイ、自分の気持ちに正直になりなさい。どうしてそんなに怖がるの?」
 「俺達は男同士だぜ?それにあいつはコワルスキを選んだんだ。俺の出番はもうないんだよ。」
 「レイ、フレイザーが誰を選んだかが問題じゃない。あなたの心の問題なの。そのままでいいの?彼に伝えなくちゃいけないことがあるんじゃないの?ちゃんと言わないと一生後悔するわよ。一生、自分を偽って生きていかなきゃならない。それでもいいの?」
ベッキオの翠の瞳はぎらぎらと輝き、リジンスキを睨んだ。
リジンスキはそれに怯むことなくにっこりと微笑んだ。
 「自分に正直になって、レイ。よく考えなさい、自分はどうしたいのか。」
そう言い残し、リジンスキが出て行くと、ベッキオはがっくりと体をベッドに沈めた。

-フレイザー、お前はコワルスキを愛しているんだな?俺はもう必要ないんだな?それでも俺はお前を愛してるよ。他の誰よりもずっと深く、お前を愛してる。
ベッキオは闇の中にフレイザーの面影を思い描いた。

ベッキオの退院の日が近づいていた。
フレイザーは毎日ベッキオの病室を訪れてはいたが、今ではそれが苦痛になっていた。
 言い出せない想い。溢れる想いに胸が苦しい。
それに心なしかベッキオの態度が余所余所しい。
 「フレイザー。何も毎日顔を出すことないんだぜ。いい加減鬱陶しいんだよ。」
はっきりベッキオの口からそう言われ、フレイザーは激しく動揺した。
あまりのショックに体が動かない。
ベッキオはそんなフレイザーの顔を見られなかった。視線を外したまま冷たい言葉を投げかける。
 「フレイザー、お前のお陰で彼女を口説くことも出来ねぇ。特に用もないんだろう、もう来ることないんだぜ。」
 「そうだね…。レイ、ごめん。僕は来ないほうがいいんだね…。」
 「あぁ。」
ちらと目を上げ、ベッキオはフレイザーを見た。フレイザーの顔は真っ青だった。
 思わず慰めようと口を開きかけ、そのまま辛そうに目を伏せる。
 傷ついたフレイザーの表情にベッキオの心も同様に深く傷ついていた。
しかしフレイザーのあの言葉、コワルスキに向けられたあの言葉を忘れることなどできない。
ベッキオは彼の顔を見るのが辛かった。
フレイザーが黙って出て行く後姿を、きつく唇を噛み締め見送った。

そしてフレイザーはもうベッキオの元に来なくなった。

退院の日、家族に付き添われ車に乗り込む。
ベッキオは無意識に赤いサージを探した。来るはずのないフレイザーの姿をベッキオは無意識に求めていた。

フレイザーは目に見えて塞ぎこむようになってしまった。
いつも心は遠く離れていて、ぼんやりと虚空を見つめている。何も手につかないようで、時々深いため息をつく。心なしか狼までフレイザーの絶望に引きずられたように元気がない。
フレイザーの足元に丸くなり、時々心配そうに顔を見上げては小さく鳴いた。
コワルスキはそれが自分のせいのような気がしていた。
フレイザーにあんなことを言わせなければ、きっとこうまでひどくはならなかったかもしれない。
どこかで面白がって、調子に乗りすぎた自分がいた。
リジンスキにまでやりすぎだと責められた。
 「確かにやりすぎだったかもしれない。だけどあれでベッキオが俺に対抗意識を燃やしてフレイザーを取り戻すと思ったんだよ。」
リジンスキと食事を取りながら、コワルスキは言った。
 「まさか自分から身を引くなんて、思わないじゃないか。」
 「レイは悩んでいたのよ。フレイザーのために自分の気持ちは閉じ込めたほうがいいってね。だから、丁度いいと思っちゃったのよ。私たちのせいね。」
 「フレイザーはまるで死んじまったみたいな目をしてるよ。あいつが生死の境を彷徨っているときより、ずっとひどい顔してる。俺、まるで自分が責められているみたいで、辛いんだ。」
リジンスキがコワルスキの腕に、慰めるようにそっと手をかけた。
 「何とかしないと。それがやりかけたものの責任よ。」
コワルスキは彼女の手に自分の掌を重ねた。

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