Angel

Jan 31, 2015 17:13


生まれて初めて書いたエロ文。
レイプ、薬物使用など、いろいろ痛いです。。



作 朋

18歳未満の方は読まないでください。

このお話は「The Duel 因縁の対決」の続きとして考えました。
 同性同士の同意に基づかない極めて具体的な性描写があります。
 苦手な方、原作のイメージを壊されたくない方は絶対に読まないでください。

フレイザーは泥を舐めた。カーヴァーの部屋の前に落ちていた泥と同じ味、そして匂いがする。
フレイザーは確信した。レイはこの近くにいる。慎重に辺りを伺う。
しんと静まり返りうち捨てられた建物群の中に、場違いな、まだ新しいぴかぴかに磨き上げられたセダンが一台停まっていた。
フレイザーはそっとその車に近づいた。
ふいに倉庫のドアが開き、フレイザーはあわてて物陰に隠れた。
カーヴァーだった。用心深く鍵をかけ、彼はセダンに乗り込むと走り去った。
 車の音が小さくなり、やがて聞こえなくなるのをフレイザーはじっと待った。
そして、その倉庫のドアに手をかけた。
しっかりと施錠されたドアは容易には開きそうにない。
 車に引き返すと、トランクからプライヤーを取り出した。
 倉庫の周辺を廻ってみる。
 飛びつけば届く位置にトタンでふさがれた窓があるのを見つけ、フレイザーはプライヤーについたカッターでそのトタンを切った。
 中からガラス窓が現れ、躊躇することなくそのガラスを叩き割る。
あいた穴から手をいれ鍵を外す。
ようやく通れるぐらいの空間を確保すると自らの体を滑らせ、フレイザーは薄暗くつんと埃の匂いのたちこめる倉庫の中に降り立った。

そこは厚く埃が積もり、ごちゃごちゃと打ち捨てられた箱や機械が死んだように陰を落としている。
その間を縫うようにフレイザーは進んだ。
 奥の、以前は事務所にでも使われていたらしい仕切られた部屋のドアの前に誘われるように進む。
そのドアのノブは最近誰かが触ったのであろう、他のものとは違い埃がきれいに拭われており、不気味に輝いている。
フレイザーの心臓は高鳴っていた。
いやな予感がする。そっとノブを回した。
ドアが乾いた音を立てて開いた。

部屋の中の異様な空気にフレイザーは吐き気をもよおした。
 紛れもない生き物の匂い。
 部屋の中央にひときわ大きな作業台のようなものが床に固定されている。
そして白いシーツがすっぽりと被されている。
 明らかに人間の形をした盛り上がりに、フレイザーはあわてて作業台に駆け寄るとシーツを剥ぎ取った。
 目に飛び込んできた無残な光景に思わずきつく目を閉じた。
 体から力が抜けたように、がっくりと作業台に手をつく。
ベッキオがいた。
 両手、両足を作業台の4つの脚に拘束され、全裸で横たわっている。
 体中にまだ血が乾ききっていない傷がつけられ、生きている証に彼の腹が不規則に上下している。
フレイザーは剥ぎ取ったシーツでベッキオの体を覆った。
 手にしたプライヤーで彼を縛っているチェーンを切り、自由にしてやるとそっと抱き寄せた。
 「レイ…。」
 友の名前を呼ぶ。
ベッキオはぐったりと頭をのけぞらせ、その体には何の反応も見られない。
 「レイ…。」
もう一度名を呼ぶ。ベッキオを腕に抱いたまま
 フレイザーは部屋を見渡した。
 作業台の下にきらりとひかるものを見つけ、そっと彼の体を横たえるとそれを拾った。
 注射器だった。まだ残る液体の匂いを嗅いでみる。
 指先に一滴落とし舐めてみる。
かすかに苦味があった。
 「ヘロインだ…。」
フレイザーはベッキオの体にシーツを巻きつけると抱きかかえた。
ドアは外から鍵がかけられている。そっとベッキオを床に座らせ、フレイザーはあたりをみた。
 埃の中から消火用の手斧を見つけるとガラスを叩き割り、それをつかむ。
フレイザーはまるで怒りをすべてぶつけるかのように手斧でドアをたたき破った。
 明るい太陽の光が指す。
 斧を捨て、ベッキオをそっと抱きかかえると車へと歩いた。

運転席に乗り込んだフレイザーは助手席のベッキオを見た。
 青白い肌にうっすらと汗がにじんでいる。
 「病院には連れて行けない。」
こんなベッキオの姿を誰にも見られたくない。フレイザーは思った。
 決心したように車を発進させ、市内とは反対の郊外へと車を向けた。

人家もまばらな森の入り口に一軒のモーテルがあった。
 夏には中心地から観光に訪れる人々で賑わうこのあたりも、この季節には利用する人影もない。
それでも中には酔狂な人間が時々やってくることもあるため、主人はモーテルを開けていた。
ぼんやりと新聞に目を通していると、エンジン音がした。
 目を上げると一台の車が止まった。
 中から男が降りてきて、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

珍しいな、こんな季節に…。
 主人は思った。
 「すいませんが、部屋をお借りしたいのですが。」
 丁寧なその口調に主人は好感を持った。
 「うちはそれが商売ですから。お好きな部屋をどうぞ。他に客はいませんしね。何泊されます?」
 「そうですね。とりあえず、二泊分お支払いします。予定ですから変更するかもしれませんがかまいませんか?」
 「どうぞ。お一人で?」
 「いえ、連れが…。できれば、少し回りと離れた部屋がいいのですが?」
 「では、1号室を。一番奥の端ですから。どうぞごゆっくり。」
 「ご親切にどうも。」
 丁寧に男は主人に会釈しキーを手にすると、出て行った。

確かに1号室は少し奥まった位置にあり、受付からも道路からも離れている。申し分ない。
フレイザーは車をすぐ前に止めると部屋のドアを開け、
 助手席のベッキオを抱き上げ、中に入った。

ベッドにそっと横たえる。かすかにベッキオがうなった。
フレイザーの胸には言いようのない思いがあふれていた。怒り、悲しみ、哀れみ、そして、自分にも理解できない、嫉妬のような感情がおしよせてくる。
 目頭が熱くなり、心臓がはげしく鼓動する。
 大きく息を吐くと、フレイザーは浴室に入った。バスタブにお湯を注ぐ。
 熱いくらいの湯に少し安心する。
ベッドに横たわるベッキオを見ながら、フレイザーは自らの服を脱いだ。
ベッキオの体を包んでいたシーツを剥ぎ取るとその腕に彼を抱き上げ浴室へと運んだ。

軽く彼の体に湯をかける。ベッキオがうなった。
そっとフレイザーは彼を支えながら湯船に浸かった。
 自分の肩にベッキオの頭をのせる。
 湯が傷に沁みたのかベッキオがうめきながら、うっすらと目を開けた。
 潤んだ翠の瞳で彼はフレイザーを見た。
 「ベニー…。何してる?」
 「大丈夫かい?」
かすれた声でベッキオは答えた。
 「体中がちくちく痛い…。」
 「ごめん、ちょっと辛抱してくれ。洗わないと破傷風になってしまう。」
 「それに、ベニー、なんだかすごく眠いんだ…。」
 「寝てればいいよ。もう心配することはないから…。」
 無防備にフレイザーの肩に頭を預け、ベッキオは再び目を瞑った。
 注射された麻薬が効いているのか、あまり痛みは感じないようだ。
 少しそれに感謝しながら、フレイザーはベッキオの体を洗った。
ベッキオの長い睫が頬に濃い影を落としている。
ふいに自らの身のうちに湧き上がる感情にフレイザーは戸惑った。
それははっきりとした形で彼の体を支配しようとする。
あわててフレイザーはその感情を打ち消した。
 「レイ、少し起きてくれ。シャワーを浴びよう。」
その声にベッキオがうなりながら目を開ける。
 朦朧とした様子でふらふらと立ち上がる彼の姿にフレイザーの心臓は高鳴った。
 努めて冷静を装いながらバスタブの栓を抜き、彼の血でピンクに染まった湯を捨てる。
ベッキオは壁に手をついて、頭からシャワーを浴びた。
フレイザーは自分のことは二の次に、ベッキオの体を乾いたタオルでぬぐうと、また彼を抱き上げてベッドへと運んだ。
ベッドに彼を横たえると、フレイザーは自らの体を洗うため浴室へ引き返した。

フレイザーはベッド脇に椅子を寄せ、浅い呼吸を繰り返すベッキオの様子を伺っていた。
うっすらと汗をかき、時折苦しそうに眉がしかめられる。
フレイザーは頭を抱え込んだ。

彼をこんな目に合わせたカーヴァーが許せなかった。
 激しい怒りが心の奥からどす黒い塊となって湧き上がる。
こめかみの血管がどくどくと脈打つのを感じ、何かにぶつけなければ自分が潰されてしまうくらいの怒りにフレイザーはどうにかなってしまいそうだった。
 急に椅子から立ち上がり、部屋の中を歩き回った。
ベッキオが小さくうなった。その声を聞きつけ、フレイザーはあわててベッキオの様子を覗き込んだ。
その途端、ベッキオがかっと目を開け、起き上がった。
 「レイ!」
フレイザーが声をかける。
あたりを伺っていたベッキオがぼんやりとフレイザーを見た。
 「ベニー?お前、こんなとこで何してる…。」
 「大丈夫かい?」
 「ここはどこだ…?俺は一体どうした?」
 「ここは郊外のモーテルだよ。もう心配ない。何も考えず少し眠ったほうがいい。」
フレイザーはベッキオを横たえようと手を伸ばした。その手が肩に触れた瞬間、彼の体はびくっと飛び上がった。
 体が細かく震えだす。頭を抱え、かすれた声でベッキオは言った。
 「頼む、俺に触らないでくれ…。」
ベッキオはフレイザーの視線から逃れるようにベッドの端に丸くなった。
 怯えた彼の様子にフレイザーはショックを受けた。きつく掌を握り締める。
 心の中で何かが弾け飛び、凶暴な衝動がむくむくと膨れ上がった。
フレイザーは自分の服を荒々しく脱ぎ捨て、ベッキオがまるで子供のように体に巻きつけていたシーツを剥ぎ取る。
 驚いてベッキオが首を回しフレイザーを見た。
 「何するんだ!」
フレイザーの只ならぬ表情にベッキオの目が大きく見開かれる。
フレイザーはベッキオの肩をつかみ、仰向けにするとその体を自分の下に押さえつけた。
ベッキオが逃れようともがく。
 「やめてくれ!ベニー、頼む。」
 必死で叫ぶベッキオの声を無視してフレイザーは彼の首筋に唇を這わせた。
 「やめろ!俺に触るな!フレイザー!」
ベッキオの腕がフレイザーの厚い胸板を押し戻そうとする。
フレイザーはその腕をつかむと枕に押し付けた。
 両肘を上げた無防備な姿で押さえ込まれ、ベッキオの目が恐怖で見開かれる。
 二人の目があった。
 「フレイザー、貴様何をする気だ!」
フレイザーの紺碧の瞳はぎらぎらと熱をおび、ベッキオの潤んだ翠の瞳をじっと見つめた。
 「君を救いたい。」
 「何言ってる?」
ベッキオはもがいた。
ぐっとそれを押さえつけ、フレイザーは続けた。
 「君を救いたいんだ。このままでは君は奴に支配されてしまう。ずっと怯えて過ごすつもりか?レイ。」
 「こんなことして俺が救えると思ってるのか!お前、それは傲慢だ!」
 「そうだね。でも、君の体につけられたあいつの痕跡を拭い去りたい…。」
ベッキオが目を細めた。
 「本気か?」
 「冗談でこんなことはしない。」
フレイザーの顔が近づく。ベッキオはとっさに顔を背けた。
フレイザーはベッキオの腕から手を離すと、彼の顎をつかみ自分の方へ強引に向ける。
そのまま無理矢理彼の唇を奪う。
ベッキオは硬く唇を閉じ、それ以上彼の好きにさせないよう最後の抵抗を試みた。
 息をつめ目を閉じる。
 「レイ、僕を見て。お願いだ、レイ!」
ベッキオはうっすらと目を開け、フレイザーを見た。
その真剣な表情からは必死さだけが伝わってくる。
 「頼む、レイ、僕を受け入れてくれ。無理強いはしたくない。」
 再びベッキオは目を閉じた。緊張で強張っていた体から力が抜けてゆく。
 「手を離せよ。」
ひくい声でベッキオが言った。
フレイザーはベッキオの腕を離した。しかしその体はしっかりと彼を押さえつけている。
ベッキオは自分の腹に当たるフレイザーの思いの強さを感じていた。
 重い腕をのばし、フレイザーの滑らかな背中をなでると疲れたようにベッドに落とす。
 「レイ?」
すっとなでられたベッキオの指の感触にフレイザーは密かに震えた。
 「負けたよ。」
 小さくベッキオがつぶやいた。
 「レイ?」
 「好きにしろ…。」
フレイザーはゆっくりと彼の唇に自分の唇を重ねた。
 今度はベッキオは抵抗しなかった。
やわらかいその感触にフレイザーは夢中になり、何度も音を立てベッキオの唇を吸った。
ベッキオもそれに答える。フレイザーのこげ茶の髪に指を絡める。
フレイザーが少し顔を上げ、ベッキオの唇の傷を見つけ、そっと舌先でなめる。
そのまま顎のラインを通り、フレイザーの唇は休むことなくベッキオの長いしなやかな首筋をたどり、やがて胸の一番敏感な部分へたどり着く。
その周りを円を描くように撫で、おもむろにその部分を唇でつまむ。
びくっとベッキオの体が震えた。
 舌で転がすとそれは硬くつんと立った。
フレイザーはそこにつけられたカーヴァーの歯型に気づき、湧き上がってくる衝動に耐え切れず、いきなりきつく噛んだ。ベッキオの体が大きく震えた。
ベッキオは声をあげないように唇を噛み締めている。
フレイザーがベッキオの顔を覗き込んだ。
 「我慢せず、声をあげればいい。」
ベッキオが小さく首を振った。
フレイザーは彼の耳元に口を近づけ、囁いた。
 「君の声が聞きたい。」
ベッキオの耳たぶをそっと噛み舌で耳の形をなぞる。
その間にもフレイザーの右手はベッキオの肌の滑らかさを楽しむように首から胸へと滑ってゆく。
 肋骨にそって指でなぞり、掌で包むように脇をなでる。
やがてその手はベッキオの喉につけられたあざに重ねられる。
 指に彼の脈が伝わり、しばしその感触に酔う。
 徐々に指に力が入り、息苦しさにベッキオが口を開けた。
フレイザーが唇で塞ぐ。
 強引に舌が口腔内に入り込み、激しく絡めてくる。
 息がつまり、ベッキオが苦しそうに喘いだ。フレイザーの手首を掴む。
はっとフレイザーはベッキオの喉を離した。
 「ベニー、俺を殺す気か?」
 喘ぎながらベッキオはかすれた声で言った。
 「君に死ぬと言わせてみたい…。」
 「お前、普通じゃねえぞ。」
じっと翠の目を見つめ、フレイザーは言った。
 「君がそうさせるんだ。」
 今度は軽く唇を重ね、
 「僕を感じて…。」
とフレイザーは体を起こした。
 改めてベッキオの体をじっくりと見つめる。
 下腹部から胸、そしてYの字に腕へと伸びる赤い切り傷をフレイザーはそっと指でなぞる。
 「この傷は?」
 「ナイフだ。わざと傷がつくように、刃をあてながら、あの野郎、俺の服を切り裂きやがった…。」
フレイザーは下腹部からその傷を舌でなめた。
 胸から腕へ、まだ血の味のするその傷を丹念になぞってゆく。
 腕の内側にぽつんと残る針の跡をフレイザーは吸った。
 手首に残された無残な拘束の痕は彼の激しい抵抗をそのまま物語っている。
ベッキオの掌と自分のを重ね、指を絡ませながら、フレイザーは彼の手首をくわえ、その傷をなめた。
ベッキオの眉がかすかにゆがめられ、フレイザーがそっと聞いた。
 「沁みた?」
ベッキオは横目でフレイザーを見つめて言った。
 「いいや…。」
 「ひどい傷だ。」
ベッキオの掌には彼自らが握り締めて出来たのであろう爪あとが無残に残されている。
フレイザーはそこにも唇をつけた。
ベッキオがそっと指を曲げ、フレイザーの頬を柔らかく包み込んだ。
うっとりとその暖かさにフレイザーは酔った。愛おしさがこみ上げてくる。

ベッキオは自分の体内の異常に気づいていた。
フレイザーの唇の熱さとやさしい指の愛撫を無意識に追いかけながら、それとは違う感覚が体を支配しようとしているのを感じていた。
 時折痺れるような痛みが襲ってくる。それをフレイザーの掌の温かさが溶かす。
 痛みの間隔は段々と短くなってくる。
ベッキオの息遣いが荒くなり、じっとりと脂汗が滲んでくる。

フレイザーはおもむろに体を回し、ベッキオの足の間に割り込んだ。
 一番傷つけられた場所はあえて無視して、内腿にくっきりと残されたカーヴァーの爪あとを自分の指でそっとなぞる。
その時ベッキオが大きく息を吸い込み、腹が激しく上下した。

ベッキオの脳裏にふいに現れた残像が彼にのしかかる。
カーヴァーが強引に入ってくる。その痛みは増幅されてベッキオの全身を襲った。
 歯を食いしばってその痛みに耐えていたベッキオがとうとう叫び声を上げた。
はっと身を起こし、フレイザーはベッキオの顔を覗き込んだ。
 見開かれた翠の瞳は何も見ていない。脳裏に映し出される幻覚に飲み込まれそうだ。
ベッキオの全身の筋肉が硬直した。

「レイ、しっかりしろ!レイ。」
フレイザーは硬く彼を抱きしめた。
しかし人間とは思えない力でベッキオは激しくもがいた。
 彼の爪がフレイザーの白い滑らかな皮膚を切り裂いた。フレイザーの頬から血が一筋流れ落ちた。
それでもフレイザーはしっかりその腕にベッキオの体を抱きしめた。掌でベッキオの体をさすり続ける。
ベッキオの頭はのけぞり、喉に残された指の痕をくっきりと浮かび上がらせる。
フレイザーはそのあざにくちづけた。ベッキオの耳に囁く。
 「僕がついている。大丈夫だ。レイ…。」

張り詰めていた糸が切れるように、急にベッキオの体から力が抜ける。
ぐったりとフレイザーの腕の中にくずれる。
しかめられた眉間に一筋の汗が流れ落ち、フレイザーはそれをなめた。
そっとベッドに横たえる。
ベッキオがうっすらと目を開け、フレイザーを見た。
 「ベニー?」
かすれた声でフレイザーを呼ぶ。
 「そう、僕だよ。レイ。」
 「お前、何してる?何でこんなとこにいるんだ。怪我してもしらねえぞ。」
 記憶が混乱している。
それには答えず、フレイザーはサイドボードに置かれた水差しから一杯の水をコップに注ぐと、自分の口に含み、ベッキオに口移しで飲ませた。
 「もっと飲むかい?」
もう一度水を飲ませ、零れ落ちた水滴を指で拭う。

きっとこれから何度も襲ってくるであろう薬による禁断症状に、フレイザーの心は激しく痛んだ。
どうすればこの苦しみから彼を救えるのだろう?またあのどす黒い憎しみが湧き上がってくる。
ただ彼を苦しめるためだけにしたカーヴァーの行為がフレイザーにはどうしても許せなかった。
そしてベッキオの体に残されたカーヴァーの印にフレイザーは激しく嫉妬した。
ベッキオは容赦なく襲ってくる痛みの間隙に今はぐったりと放心し、荒い息をついている。

フレイザーは決心し、その場を離れバスルームへ向かい、置いてあったオイルをつかんだ。
それを持って戻り、ベッキオの顔を覗き込んだ。
 彼の頬を掌で包み込み、そっとくちづける。
フレイザーはベッキオの両足の間に体を割り込ませた。彼の膝を立たせる。
フレイザーはベッキオに触れた。
しかし何の反応もない。堪らなくなり、フレイザーはそれを口に含んだ。
そっとやさしく舌と口腔で包み込む。やがて熱を帯びてくるまでフレイザーはそれを丹念に舐っていく。
ベッキオが小さく呻いた。その声にフレイザーは顔を上げ、用意したオイルを彼にたっぷりと湿した。
 自らのものにもまた刷り込むと、フレイザーは彼の白い双丘の間にあてがった。
ベッキオのものをその掌に包むと、少し力を入れて握った。
ベッキオの体がその刺激に反応し、少し腰を引いた。
フレイザーはその動きにあわせ、自分の腰を彼のそれへと押し上げた。

ベッキオが叫んだ。
 突然の痛みにそれが現実か悪夢かわからずに混乱して叫んだ。
フレイザーは逃げようとするベッキオの腰を掴み、引き寄せる。
ふとそこにもまたカーヴァーの痕を見つけ、フレイザーはベッキオの叫びにもかかわらず、ずっと深く自らを埋めた。
ベッキオが逃れようと無意識に体をよじる。
フレイザーはベッキオの背中に腕を回し、彼を自分の前に座らせるような形で抱き上げた。
 体の奥までフレイザーが入ってくる。
ベッキオがその痛みに叫んだ。きつくフレイザーの肩をつかみ、大きく体を仰け反らせる。
 露わになった彼の白い首筋にそっと唇をつけ、フレイザーは熱い吐息をついた。
 「レイ、僕を感じてくれ。」
 現実の痛みに一瞬正気に戻り、ベッキオがうっすらと目を開けてフレイザーを見た。
 「ベニー…。」
カーヴァーの残忍な顔が消えた。フレイザーだ。
 「ベニー、お前…。」
ベッキオの耳にフレイザーの声が聞こえる。
 「僕を感じて…。」
ベッキオがきつくフレイザーを締め付ける。
フレイザーが喘いだ。
 「レイ…。」
 二人の目が合った。
 「…レイ、力を抜いてくれ。」
ベッキオが仰け反った。
ベッキオの背中を幻覚とは別の感覚が這いあがってくる。
 激しい痛みの中にいつしか別の感覚が生まれ始めていた。
 自らの体内に熱く脈動するフレイザーを感じる。
 痛みが熱に変わり、ベッキオの体から余計な力が抜けていった。
フレイザーはベッキオの中に深く自らを埋めたまま、そっと彼の体を寝かせた。
その手はベッキオを包み込んで、やさしく扱いた。彼の反応を見ながらゆっくり腰を使う。
 出来るだけ長引かせようとフレイザーはゆっくりと動いた。その動きにベッキオもあわせる。
 彼の喉から喘ぎがもれる。その声がフレイザーを高めてゆく。
 段々と早く、激しくフレイザーは動いた。
オイルがみだらな音を立てる。
ベッキオは何も考えられなかった。
 脳裏に張り付いていた悪夢はきれいに消え去り、ただ激しく押し上げられ、高められてゆく甘い痛みの混じった快感に支配される。
 完全に二人の動きは一体となり、限界まで高められた。
ベッキオがフレイザーの手の中で弾けた瞬間、フレイザーは今までにないほど深く衝きたて、彼の中で欲望を迸らせた。

ぐったりとフレイザーがベッキオの胸の上に倒れこんだ。
 荒い息をつきながら、汗でまみれた体をあわせる。
ベッキオの胸にぴったりと押し当てた耳に彼の激しい鼓動が響く。
 心地よい脱力感の中で、それが落ち着きを取り戻し、規則正しくリズムを刻むのを確かめる。
その響きを子守唄代わりに、フレイザーは充足した眠りに落ちた。

腕の痺れにふとベッキオが目を覚ました。自分の胸に耳を当てたまま、フレイザーがぐっすりと眠っている。
 現実と夢の狭間の朦朧とした霞の中で、天使のようなその美しい寝顔をベッキオはうっとりと見つめた。
 悪夢の中で自分を呼ぶ彼の声だけがはっきりと聞こえていた。
 自由な方の手を伸ばし、フレイザーの頭をそっとなでる。
 彼を起こさないように気をつけながら、腕を引き出す。
まだふらつく体を起こすと、ベッキオはそっとベッドを抜け出した。

フレイザーが目を覚ましたとき、ベッキオの姿はなかった。あわてて身を起こす。
バスルームから水音が聞こえ、ほっと胸をなでおろす。そして彼もバスルームへ向かった。

「レイ?」
おずおずと声をかける。勢いよくカーテンが開かれ、ベッキオが顔をのぞかせた。
 「何だ?」
 「大丈夫かい?」
フレイザーはうっとりと彼の引き締まった体を見つめながら聞いた。
 「あぁ、ちょっとまだだるいけどな。薬は抜けたみたいだな。」
 返事のないフレイザーにベッキオが振り返る。
 「何だよ?」
 「いや…。本当に大丈夫なんだね?」
 「あぁ、何でもない。」
ふとベッキオが腕を伸ばした。フレイザーの白い頬についた無残な爪あとにふれるかふれないかというぐらいそっと撫で、すっと手を引く。
 「すまん…。痛むか?」
 「いいや。」
フレイザーが微笑んで首を振った。
 「お互いひどいな。」
フレイザーの体にもベッキオにつけられた無数のあざや爪あとが残っている。
 「そうだね。…レイ、もう何ともないんだね?」
 言い難そうなフレイザーの口調を察してベッキオが答えた。
 「カーヴァーのことか?」
フレイザーはうなずいた。
 「さあな。あれは拷問だった。俺はできるだけ何も感じないようにしてた。まあ傷がふさがったら、多分大丈夫だろうよ。それより…。」
ベッキオはシャワーを止め、タオルで体を拭いながらフレイザーと向き合った。
 「なに?」
フレイザーが聞いた。
いきなりフレイザーのうなじをつかみ、ぐっと顔を近づけベッキオが言った。
 「お前に抱かれて感じたことのほうがショックだな。」
そのままフレイザーの唇を塞ぐ。フレイザーの手が彼の背中に回される。
 唇を離すと、
 「今度は俺がお前をいかせてやるからな。覚悟しとけよ。」
そう言い残し、ベッキオはバスルームを後にした。
フレイザーはまだ暖かさの残る唇をそっと指でなでながらつぶやいた。
 「楽しみだ…。」
そしてシャワーの蛇口をひねった。

終わり

nc-17, ds fic

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