ficlet "GRAVITY"

Jul 18, 2006 12:12

- Title: Gravity
- Language: Japanese
- Rating: G
- Pairing: Cannnavaro/Pirlo, Cannnavaro POV
- a disclaimer: Of course, it's all fiction.
- Summary: World Cup 2006 final ! At penalty shoot-out scene. I was so moved to see pirlo put his arms around his captain.



GRAVITY

あいつとはもう長いこと、アッズーリで一緒にやってきている。
それだけじゃない―――おれとあいつとはいつもリーグのトップ争いをしているクラブでライバル同士でもある。
アッズーリではチームメイト、リーグではライバルという関係は別に俺達にとって難しいことではない。
コベルチャーノの合宿所に集まればクラブでのいがみ合いなどすぐに水に流せるし、違う色のマーリアを着れば自然とライバル同士に戻れるものだ。
少なくとも俺はそう信じて10年近くやってきている。
だから、俺がこれまであいつとどことなく距離を置いていたのはそういう理由ではない。しかもあいつは人に不快感を与える性格でもないし、汚いプレイもしないタイプだ。
たぶん、あいつの持つ独特の静けさというか、悪く言っちまえば自分の殻というか世界を持っているタイプだということなんだと思う。それもまあ、俺の思い込みだったのかもしれないが。

ワールドカップの決勝戦、120分を闘い終えて、確かに俺は自分のなすべきことをすべてした自信があった。しかし、PK戦で俺のすることなんてほとんどなかった。
リッピが決めた蹴り順によると、俺がキッカーになる可能性はほとんどないと言って良かった。少なくとも、俺のところまでもつれこむことなんてあって欲しくはなかった。
敵の偉大なるカピターノはすでにピッチの上にいない。彼の影に勝つために、俺がカピターノとしてできること、それはただ動揺しないこと―――いや、動揺しているのを悟られないことだけだった。

あいつはファースト・キッカーに指名された。
顔色からは何も読み取れない。
あいつはこの7試合、ずっと自信に満ちたプレイをしてきていた。それだけで充分なはずなのに、俺はあろうことか、去年のチャンピオンズリーグの決勝のPKであいつが失敗したことなんかを思い出していた。
俺が目を瞑る勇気すら持てない間に、あいつは相変わらず顔色も変えずにきっちりと決めていた。
最後の審判の被告席のようなあのスポットから帰ってきたあいつは、小さくガッツポーズをしたもののいつもの柔らかい鉄面皮に戻っていた。また俺は理解不能な奴だという判断に戻った。
フランスのファースト・キッカーも当たり前のように成功し、俺はまた揺れる大地と格闘するはめになる。
足を開いて踏みしめ、硬く握った拳の白さを隠すように腕を組んだ。
蹴る奴もみんな独りであそこに立ち、守るキーパーもただ独りで立っているのだから、俺が耐えないわけにはいかない。
そう決意しなおした瞬間に、不思議な重さが肩にかかった。
後ろから首に回される男の腕、汗の流れ落ちるシャツが密着する感覚。
俺にしがみついてきたのは、なんとあいつだった。いちばんそういうことをしなそうに見えるあいつだった。
彼が、俺の孤独を和らげるためにそんなことをしたのでないことはすぐにわかった。
すべてをやり終えてしまったあいつに必要だったのが俺の背中で、俺の体温だったのだろう。
そして俺は、あいつが俺の背中を求めたその重みが嬉しくて仕方がなかった。
その重みと、へばりつくあいつの息遣いと体温とが、あの数分間の俺を支えてくれた。
もう俺は独りではなく、無理に独りである必要がないとわかったから。
5人目のグロッソが決めてくれたとき、俺は振り向いてあいつを抱きしめ、キスしたい衝動に駆られた。
そんな恥ずかしい映像が世界中にたれ流されるのは未然に防がれた、俺より一瞬早くあいつが俺から離れて跳び上がったから。

録画された俺達の歓喜の瞬間と、それにつづく馬鹿騒ぎの映像を見直すと、あの時の俺は自信に満ちていたように見える。
俺はあのドサクサのどこかで、キスの代わりに彼の耳元にささやいた。
「ありがとう、アンドレア」と。
あいつは眠たそうな目のままで笑い返したと思う。
あいつはたぶん、ファースト・キッカーの重圧に耐えたことを俺が言っているのだと思っただろう。
それだけではない。俺をまともなカピターノにしてくれたあの瞬間に感謝しているのだ。

fin

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