Glass (back) world

Feb 23, 2010 19:00



硝子の(裏)世界

「……んっ…ふぅ……」
 フィリアの声にならない声、微かな吐息が絶えず響く。

何とかゼロスの腕や胸元を掴み、辞めさせようとするがろくに手に力が入らない。ゼロスはフィリアの柔らかい唇を吸って、舌を唇に滑り込ませては、フィリアの舌を絡めとっていく。静まり返った部屋の中、微かな口づけの音だけがこだまする。
 どうしたらよいのか解らずしばらく受け入れていたフィリアだが、「音」を意識するとたまらなく恥ずかしくなる。震える手に何とか力を込め、ゼロスの首もとや頬に触れ、離させようとする。しかし虚しい抵抗だった。ゼロスはフィリアの身体をさらに引き寄せ、逃げかけた唇に強く吸いつく。
「んーっ!」
 すぐに、舌を割り込まされフィリアは真っ赤になる。フィリアの中で舌は激しく絡み、フィリアの体を熱くした。もはや、かすみそうな意識を繋ぎ止めるのに必死である。しかし、ふいに身体に力が完全に抜け、崩れこんでしまう。ゼロスの左腕がしっかりと受け止めてくれる。

ゼロスはそこまできて、ようやく唇をはなす。フィリアの息づかいはひどく乱れ、顔は紅潮し、大きな蒼い目は潤み今にも涙を溢れさせそうだった。ゼロスから解放され逃げるなら今なのに、フィリアは動けなかった。身体の芯がかぁっと火照って力がどこにも入らない。まして、この腕から離れ、立ち上がるなど到底できそうになかった。だから、ただ腕に抱かれたままゼロスと見つめあっていた。

呆然自失ともいえる乱れきったフィリアの様子に、ゼロスはかすかに微笑む。貴女はまだ子供なんでしたっけ。ゼロスはいつくしむ様にフィリアの髪を耳にかけてやる。しかし…
「ぁっ…」
 途端に、フィリアは声をあげる。耳元に触れらているだけなのに真っ赤になってしまう。フィリア自身もどうしてしまったのか解らず、ただ困惑し瞳を潤ませる。
ゼロスの指がさらに耳元を撫でつけると、
「あんっ…」
フィリアは首をすぼめ震えた。
ゼロスはくすくすと笑う。当然の反応に戸惑う様子が可笑しくて、何より嬉しかった。
「怯えなくても、大丈夫ですよ。」
と、再び引き寄せ口付けようとする。
「ぁっだめっ…」
フィリアは手で静止するが、ゼロスが手を掴みゆっくりと見つめる。すると、視線の吸い込まれるように、フィリアは受け入れてしまう。震えるほど軽く口付けたあと、再び唇は深く重なり合った。

二人が夢中で抱き合う中、ふいに誰かの足音が響く。
 ジラス達が戻ってくる時間?フィリアは泣きそうになる。こんなところ見られたら…そういえば、さっきからヴァルはすぐ横の揺りかごで寝ている。意識は焦るけれど、身体は魔法にかかったように、いっこうにゼロスの腕を振り払おうとはしない。

とうとう、足音は部屋の前まできていた。
ドアのひく音と同時にフィリアは目を閉じた。

いつのまにか、まわりの空気に緑の香りが混じっている。
フィリアがおそるおそる目を開けると、前には見慣れた法衣。
「ここは?」
「近くの森です。僕も反射的に移動したので、正確な位置までは。」
フィリアは大きく息をつく。あんな場面を人様に見られたら生きていけない。ゼロスだったら面白がりそうなものだが。

フィリアは今までの経緯を思い出してゼロスを睨む。
「もし、あんなところ誰かに見られたら、どうするんです?」

「だから、フィリアさんが困ると思ってこうして空間移動したんですよ。それとも、これも貸しにしますか?」
(僕だって、貴女のあんな可愛いい姿を、他の誰かに見せる気なんてありませんよ。)

「元をただせば、みんな貴方がいけないんですよ。みんな貴方のせいです!!」

(当たり前です。他の誰かが原因で、ああなられては困ります!)
「そうですか?そんな風には見えませんでしたけど、フィリアさん巫女なのにねえ。」

フィリアは絶句する。言い返したいけど、言い返せない。顔を背け歩き出す。

二人はしばらく意味もなく周辺を歩いた。すると、木々がひらけ小さいな泉が姿を現す。フィリアは思わず駆け寄った。透き通るほど綺麗な水面に触れると、ひんやりとした感触が伝わってくる。見上げれば、雲一つない空、清涼な森の香り。フィリアは久々にすがすがしい気分になっていた。考えてみれば、ヴァルが生まれて以来、ずっと街で人混みの中で生活してきた。
「日向ぼっこには最高の日ですね。」
「少し休んでいきますか?」
ゼロスの言葉に躊躇しつつフィリアは頷く。二人は木陰に腰を下ろした。
「本当に美しい空ですね。」
 フィリアは、傍らの魔族に、ついさっき湖の底に沈めたいほど頭にきた魔族に、屈託のない笑みを投げかけてしまう。はっとして、目を逸らす。が、それを言うなら、一族を壊滅に追い込んだ魔族と、ドラゴンスレイヤーの異名をもつ獣神官とあんな風に抱き合っていたことの方が問題である。軽率すぎる自分の行動。フィリアの瞳が曇り始める。

「フィリアさん…?」
ゼロスはフィリアの気が急激に落ち込むのを感じ、顔を覗く。
 フィリアはゼロスを見て俯いてしまう。彼を責める気にはなれなかった。ゼロスの言う通り彼の責任ではない。抵抗しなかった自分がいけない。「抵抗しないこと」が問題なのだ。
「フィリアさん!」
ゼロスの語気がめずらしく強くなる。
「何でもありません。」
「何でもなくないでしょ?何を考えているのです?」
「帰りましょう。」
フィリアは目も合わさず、立ち上がろうとする。
ゼロスは、腕を強く掴み、顔を自分に向けさせる。

ゼロスの目が大きく見開かれた。
「泣いているのですか…悪かったですよ。あんな真似はもうしませんから安心して下さい。」
 (この先貴女に会えるかもどうかもわかりません。あの方の目をかすめ、仕事を放り出して、こんな風に会いに来ることはもうないでしょう。だから、 安心して下さい。)

「別にゼロスのせいではありません。魔族はそうやって、悪者になりたいものなんですか?」
フィリアは頬笑んで見せた。
「それで平静を保ったつもりですか?」
ふいに、ゼロスの口調が冷たくなる。彼女の泣く理由が自分にあることだけは解っていた。だからこそ、隠されるのは、はがゆい。どんどん不安になり、たまらなく苛つく。
「貴女は自分の気持ちを偽れるほど器用じゃないですよ。第一、自分の面倒も見られない子供なんですから、背伸びしても無駄です。」
 しかし、フィリアにはそんなゼロスの細かな心情など解らない。
「どうせ、私は不器用で子供です!自分の気持ちにも自制もできません!だから、魔族の、それもドラゴン・スレイヤーである貴方を受け入れ、あんな風にされることを心地よくさえ思ってしまったのです。」

ゼロスは一瞬言葉を失う。

「馬鹿なことを!貴女は、僕に、無理矢理、力ずくで。」
ゼロスは低く言った。
「違います!私は,て、抵抗なんてしてま」
「いいえ!」
 ゼロスの鋭い声がさえぎる。 自分の行動がこんなふうにフィリアを追いつめるとは思いもしなかった。いや、ろくに何も考えていなかった。今の今まで衝動だけで、フィリアの元にやって来たのだから。

憎む分にはかまわない 怒る分にはかまわない。
でも、愛されたら?

矛盾していることは解っている。
それでも-

それだけは駄目です。
僕は、貴女を真実に受け入れることはできません。
僕は、貴女のそばにいることさえできないのですから。

「いいですか。貴女が世間知らずなだけです。こんな風にされれば、大抵の女性はなえてしまうんです。」
そう言うと、ゼロスは乱暴にフィリアを後ろから押さえ込み、耳を舐め、首筋を吸う。
「あっ…」
フィリアは小さく震える。触れられるたび身体が骨抜きにされる。ゼロスがフィリアを羽交い締めにして服の上から胸を揉む。
「…はぁっ…はぁ」
 フィリアは何とか離れようとするが、ゼロスが白い首筋を甘く噛む。
「あぁっ…」
 狂おしいほどの痛みと快感にフィリアは首をのけぞらした。サラサラとした金髪をゼロスがかきあげるだけでフィリアは小さく喘ぐ。露わになるうなじをゼロスは舐め上げ、丁寧に吸う。そしてその襟元を開け、むき出しになった肩に愛おしげに唇を滑らす。
「んっ…あぁっ…」
「わかりますか?今、貴女は僕に弄ばれているのです。むろん、さっきもです。」
ゼロスは耳元で囁く。フィリアには見えない、その表情は悲痛ともいえるほど険しかった。

ゼロスは上着の下から手を入れ、フィリアの胸をじかに掴んだ。
「やぁ…」
フィリアは大粒の涙を流し、小さく悲鳴を上げる。
「あっ…あぁ…ぅんっ…」
全体をもみあげたあと、指で先端をつまんだり、つねったりする。
「うぅ…ん…あっ!」
そのたびに腕の中のフィリアの身体がびくんと震えるのがわかる。手からは彼女の心臓の早鐘が哀しいくらい伝わってくる。

-こんなことはしたくない、こんな風にはしたくない

草むらに押し倒し、スカートをたくし上げ、遠慮なく下着の中に手を入れた。
「いやぁっ…」
フィリアは、息もたいだえで小刻みに震えた。
「お願い…や…めて…」
 そして、泣きそう瞳を上げると何とか紡ぎ出す。しかし、ゼロスは、目をそらし、フィリアに乱暴に覆い被さった。フィリアは固く目を閉じた。

が、ゼロスの手は、そこでぴたりと止まった
フィリアの乱れた服を引き上げると、あっけなく身を離す。

「これで解ったでしょう?貴女は僕にからかわれたんですよ。でも、貴女みたいな子供では、弄ぶのすら役不足です。」
自分のマントをフィリアにかけ、背を向けた瞬間、虚空に消えた。

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